第1章: シャーマニズムの起源と初期の形態
最古の宗教、シャーマニズムの誕生
シャーマニズムは、人類が最初に宗教的な意識を持った時期にまでさかのぼる。この宗教的実践は、狩猟採集民たちが自然の中で生きるために、霊的な力を借りようとしたことに起因する。彼らは、動物や植物、大地や空など自然のすべてに霊が宿ると信じ、それらと交流することで生活の安定を図った。この信仰体系は、イヌイットやアマゾンの先住民、シベリアの遊牧民など、世界中の異なる文化で独自に発展したが、共通して自然界との深い結びつきを持っている。シャーマニズムは、物理的な世界と霊的な世界を結びつける最初の試みであり、人類の精神的探求の出発点となったのである。
霊的な仲介者としてのシャーマン
シャーマンとは、霊的な世界と人間界をつなぐ特別な存在である。彼らは、病気の治癒や狩猟の成功、さらには悪霊からの防御など、さまざまな社会的役割を果たす。シャーマンになるためには、しばしば特殊な訓練や霊的な体験が必要とされる。例えば、シベリアのエヴェンキ族では、シャーマンが精神的な試練を経て霊と接触し、その力を得ると信じられていた。シャーマンはまた、トランス状態に入ることで、霊的な存在と直接対話し、必要な知識や力を引き出す。このように、シャーマンは単なる宗教的指導者ではなく、コミュニティ全体の精神的支柱となる存在であった。
トランス状態への旅
シャーマニズムにおいて最も重要な儀式の一つが、トランス状態に入ることである。シャーマンはドラムのリズムや呪文、あるいは薬草を用いることで、意識を変性させ、霊的世界に旅立つ。トランス状態では、彼らは動物の姿を借りたり、精霊と対話したりすることができるとされる。アメリカ先住民のホピ族や南米のアマゾン先住民の間では、シャーマンがトランス状態で得た知識がコミュニティの運命を左右すると信じられていた。トランス状態は、物質世界の制約を超えた新たな次元への入口であり、シャーマンが霊的世界と接触するための不可欠な手段であった。
シャーマニズムの広がりと多様性
シャーマニズムは、特定の地域や文化に限定されたものではなく、世界中で独自の発展を遂げてきた。シベリアのサモエード族、アフリカのズールー族、北米のアラスカ先住民など、さまざまな民族がそれぞれのシャーマニズムを育んできた。これらの地域では、自然環境や社会的条件に応じて、シャーマニズムの形態や儀式が異なっている。しかし、どの文化においても共通しているのは、シャーマニズムが自然との深い結びつきを基盤としていることである。この多様性こそが、シャーマニズムの魅力と普遍性を物語っているのである。
第2章: シャーマンの役割とその社会的地位
霊界と人間界の橋渡し役
シャーマンは、ただの宗教的指導者ではなく、霊界と人間界をつなぐ橋渡し役として知られている。彼らは神々や霊、自然の精霊たちと直接対話し、コミュニティにとって重要な情報をもたらす存在である。例えば、シベリアのシャーマンは、トランス状態に入り、冬の厳しい自然環境で生き残るための狩猟のタイミングや場所を予言した。また、病気や災厄が訪れた際には、シャーマンがその原因を霊的な視点から探り、治療法を見つけ出す。シャーマンの役割は、まさにコミュニティの精神的な安全を守るために欠かせないものであった。
社会的影響力とシャーマンの地位
シャーマンはその霊的な力によって、コミュニティの中で大きな影響力を持っていた。彼らは時に村のリーダーや政治的な指導者としても機能し、重要な決定を下す際にはシャーマンの意見が重視された。アフリカのズールー族やアマゾンのヤノマミ族では、シャーマンが儀式を通じて神々の意志を問い、戦争や移住といった重大な決断を導いた。このように、シャーマンはただの霊的指導者にとどまらず、社会の中での権力者としての地位をも持っていた。その地位は、彼らが持つ知識と経験、そして霊的な力によって築かれていた。
シャーマンになるための試練
シャーマンとなるには、厳しい試練を経る必要があった。多くの文化において、シャーマンの選出は幼少期からの特別な霊的体験によるものが多く、候補者は自然界や霊的存在からの試練を受けることになる。シベリアのエヴェンキ族では、病気や幻視、夢の中での霊との出会いがシャーマンとしての選ばれし運命を示すと考えられていた。その後、シャーマン候補者は経験豊かなシャーマンの下で訓練を受け、霊界へのアクセス方法や儀式の技術を学ぶ。こうした厳しい過程を経て、初めてシャーマンとしてコミュニティに認められるのである。
シャーマニズムの儀式とコミュニティの結束
シャーマンの儀式は、単に霊的な交流だけでなく、コミュニティの結束を強める役割も果たしていた。祭りや儀式の際には、シャーマンが主導して歌や踊り、祈りが捧げられ、人々は一体となってその瞬間を共有した。アメリカ先住民のプエブロ族では、シャーマンが季節の変わり目に行う儀式を通じて、豊作や平和を祈願し、コミュニティ全体の団結を促した。シャーマンの儀式は、霊的な力を引き出すと同時に、社会の一体感を高める重要な機会でもあったのである。
第3章: トランス状態と霊的世界へのアクセス
トランス状態の謎
シャーマンは、トランス状態に入ることで霊的世界への扉を開く。これは単なる幻覚ではなく、彼らが霊的な存在と直接交流するための手段である。シベリアのシャーマンは、ドラムのリズムや歌を使ってトランス状態に入ることが多く、その瞬間、彼らは別の世界へと旅立つ。トランス状態に入ったシャーマンは、自身の魂が肉体を離れ、動物の姿を借りて霊的な存在と対話すると信じられている。この儀式は、病気の原因を探るためや、未来を予知するために行われる。トランス状態は、シャーマンが霊的知識を得るための重要なプロセスであり、彼らの力の源である。
世界を超える旅
シャーマンがトランス状態に入ると、彼らは物理的な世界を超えた霊的な領域を旅する。アメリカ先住民のナヴァホ族では、シャーマンがこの旅を通じて、病気を引き起こす邪悪な霊を見つけ出し、追い払うとされる。この旅は、シャーマンにとって危険であり、時には命をかけた挑戦である。シャーマンは動物の精霊や祖先の霊と出会い、知恵を授かる。こうした霊的な旅は、シャーマンが持つ特別な力の一部であり、彼らがコミュニティを守るために必要な知識を得るための重要な手段であった。
霊的なガイドとの出会い
トランス状態での旅において、シャーマンはしばしば霊的なガイドと呼ばれる存在と出会う。これらのガイドは、動物の姿や祖先の霊として現れ、シャーマンを霊的な世界で導く。南米のアマゾン地域では、シャーマンがジャガーの精霊と出会い、その知恵を得ることが多いとされる。このガイドたちは、シャーマンが迷わずに霊的な世界を旅するために重要な役割を果たす。彼らはシャーマンに洞察や癒しの方法を伝え、コミュニティに戻った後にその知識を共有するよう導くのである。
トランス状態の科学的解釈
シャーマンがトランス状態に入る過程は、現代の科学においても興味深いテーマとなっている。心理学者や神経科学者は、トランス状態が脳の特定の部位に影響を与えることで引き起こされると考えている。特に、意識の変容が脳内の神経伝達物質やホルモンの変化によって起こることが明らかになっている。また、トランス状態がストレスや不安を軽減し、心身のバランスを整える効果があることも研究されている。このように、シャーマニズムの伝統的な儀式は、現代の科学によってもその有効性が一部証明されつつある。
第4章: シベリアと北アジアのシャーマニズム
極寒の地に根付く古代の知恵
シベリアと北アジアの広大な地域は、シャーマニズムの発祥地の一つとして知られている。この地域に住むエヴェンキ族やヤクート族などの先住民たちは、厳しい自然環境の中で生き抜くため、シャーマニズムを中心にした信仰を築いてきた。彼らは自然界のすべてに霊が宿ると信じ、シャーマンはその霊と対話することで、狩猟や漁業の成功を祈願し、病気の治癒を行った。極寒の地に住む彼らにとって、シャーマンは単なる宗教的指導者以上の存在であり、コミュニティ全体の存続を担う重要な人物であった。
霊との交流を深める儀式
シベリアのシャーマンたちは、独特の儀式を通じて霊との交流を深めていた。彼らの儀式は、ドラムや鈴を使った音楽と、特定のリズムに合わせた踊りによって進行する。これにより、シャーマンはトランス状態に入り、霊的な世界へとアクセスする。この儀式は、夜通し続くこともあり、参加者全員が霊的な力を感じ取ることができるようにデザインされていた。また、シャーマンは儀式の際に特別な衣装を身に着け、動物の皮や羽根を使用して霊的な力を引き出す。こうした儀式は、シャーマンとコミュニティの間に深い絆を築く役割を果たしていた。
シャーマンの力を象徴する道具
シベリアのシャーマンは、霊的な力を象徴する特別な道具を持っていることで知られている。その代表的なものが「タンバリン」であり、これはシャーマンがトランス状態に入るための重要な道具である。タンバリンのリズムは、シャーマンの精神を高揚させ、霊的な世界への入り口を開くとされる。また、シャーマンは「呪符」と呼ばれる特別な道具を使用し、悪霊を追い払ったり、病気を癒す力を得る。このような道具は、シャーマンの力を増幅させるだけでなく、コミュニティにとっても神聖なものと見なされていた。
伝統と現代の交差点
シベリアと北アジアのシャーマニズムは、現代においてもその伝統を守り続けている。しかし、現代社会の影響を受け、シャーマニズムは新しい形で再解釈されつつある。たとえば、一部のシャーマンは、インターネットを通じて世界中の人々と繋がり、遠隔で儀式を行うようになっている。また、観光業の発展により、シャーマニズムは外部の人々にとっても魅力的な文化として紹介されることが増えている。伝統と現代が交差する中で、シベリアのシャーマニズムは新たな形で進化を続けているのである。
第5章: アメリカ先住民のシャーマニズム
先住民の世界観とシャーマニズムの融合
アメリカ先住民のシャーマニズムは、自然と深く結びついた世界観に根ざしている。彼らは、山や川、風といった自然界のすべてに精霊が宿ると信じ、それらの精霊と交信する手段としてシャーマニズムを発展させた。例えば、ナヴァホ族は自然界の調和を保つために、シャーマンが儀式を通じて精霊の力を借りる。この儀式には、歌や踊り、砂絵を用いた独特の表現方法があり、自然と人間とのつながりを象徴している。シャーマニズムは、自然のサイクルを理解し、その力を利用するための知恵とされ、先住民の生活に欠かせない要素であった。
魂の旅とアニミズムの共鳴
アメリカ先住民のシャーマニズムにおいて、魂の旅は非常に重要な概念である。シャーマンはトランス状態に入り、霊的な世界を旅することで、病気の原因を探ったり、未来を予見することができると信じられていた。この旅は、アニミズムの信仰と密接に結びついており、すべての生命体に魂が宿るという考え方が基盤となっている。たとえば、チェロキー族では、シャーマンが魂の旅を通じて、動物の精霊と対話し、その知恵を借りて病を癒すことがあった。魂の旅は、シャーマンが持つ特別な力を象徴するものであり、コミュニティ全体にとっての救いの手段であった。
儀式と自然の調和
アメリカ先住民のシャーマニズムにおける儀式は、自然との調和を保つために行われる。例えば、ホピ族の「クチャイナ・ダンス」は、豊作を祈願するための重要な儀式であり、精霊が農作物の成長を助けると信じられている。このダンスは、シャーマンが精霊との交信を通じて、自然の力を人間に引き寄せる手段である。また、北米のプエブロ族では、雨乞いの儀式が行われ、シャーマンが雨の精霊と交渉し、干ばつを防ぐための儀式を行う。こうした儀式は、自然界のバランスを保つために欠かせないものであり、シャーマンはその媒介者としての役割を果たしていた。
伝統の継承と現代の課題
アメリカ先住民のシャーマニズムは、今日に至るまでその伝統を守り続けている。しかし、現代社会における文化的な同化や環境の変化により、シャーマニズムの実践は大きな挑戦に直面している。たとえば、ナヴァホ族では、伝統的な儀式を守りながらも、現代医療との共存を模索する動きが見られる。また、環境破壊によって、儀式に必要な自然資源が失われつつある現状もある。それでも、若い世代がシャーマニズムを再評価し、その文化を継承しようとする動きが広がっており、先住民のアイデンティティを守るための重要な役割を担っている。
第6章: アフリカ大陸におけるシャーマニズムの伝統
精霊崇拝とシャーマニズムの共鳴
アフリカ大陸に広がるシャーマニズムは、精霊崇拝と深く結びついている。ズールー族やヨルバ族など、多くのアフリカの民族は、山、川、森などの自然に精霊が宿ると信じ、シャーマンはその精霊と交信する能力を持つと考えられている。例えば、ズールー族では、シャーマンが村を守るために精霊の力を呼び出し、病気や災害から人々を守る儀式を行う。シャーマニズムは、自然界と人間の調和を保つための重要な要素であり、精霊崇拝を通じて、その信仰は地域社会に深く根付いているのである。
魂の癒しと伝統医学
アフリカのシャーマンは、病気の治癒においても重要な役割を果たしている。彼らは、病気が精霊の怒りや悪霊によって引き起こされると考え、それを鎮めるための儀式や呪術を行う。例えば、ヨルバ族のシャーマンは、ハーブや植物を使った伝統医学を駆使し、病気の根本的な原因を取り除こうとする。この癒しのプロセスでは、シャーマンが患者の魂と対話し、霊的なバランスを取り戻すことで、心身の健康を回復させると信じられている。こうした伝統医学は、現代医学と共存しながらも、依然として多くの地域で重要な治療法として尊重されている。
死者との対話と先祖崇拝
アフリカのシャーマニズムにおいて、死者との対話は非常に重要な儀式である。シャーマンは、先祖の霊とコミュニケーションを取る能力を持ち、彼らの知恵や助言を求めることができる。特に、ケニアのキクユ族では、シャーマンが村の重要な決断を下す際に、先祖の霊に相談する儀式が行われる。このように、先祖崇拝はアフリカの文化において非常に重要であり、シャーマンはその媒介者として、死者と生者をつなぐ役割を果たしている。先祖の霊との対話を通じて、シャーマンはコミュニティにとって不可欠な存在となっているのである。
現代社会とシャーマニズムの共存
現代においても、アフリカのシャーマニズムはその伝統を守り続けているが、都市化やグローバリゼーションの影響で変化を余儀なくされている。都市部では、シャーマンが現代的な問題に対処するために、新しい形の儀式や呪術を取り入れるようになっている。例えば、ナイジェリアの都市部では、シャーマンがインターネットを利用して遠隔で相談を受け付けたり、現代のストレスや不安に対処するための新しい儀式を提供している。また、シャーマニズムは観光業においても重要な役割を果たしており、外部の人々にその文化を紹介することで、伝統を守りつつも新しい収入源を得ることができている。
第7章: アマゾンと南米のシャーマニズム
密林の中で生まれる霊的な絆
アマゾン地域のシャーマニズムは、広大な熱帯雨林の中で発展してきた。この地域に住むヤノマミ族やシピボ族などの先住民たちは、自然との深い絆を持ち、シャーマンはその橋渡し役として重要な存在である。アマゾンのシャーマニズムでは、動植物が霊的存在として尊重され、シャーマンはこれらの精霊と対話することで、コミュニティの健康や繁栄を祈る。特にアヤワスカと呼ばれる植物を用いた儀式は、シャーマンが霊的な力を得るための重要な手段であり、この神秘的な儀式はアマゾンのシャーマニズムの中心的な要素である。
アヤワスカの儀式とその神秘
アマゾンのシャーマニズムにおいて、アヤワスカは非常に重要な役割を果たしている。アヤワスカは、異なる植物を組み合わせた飲み物であり、その摂取によってシャーマンはトランス状態に入り、霊的な世界とつながることができるとされる。この儀式は、ヤノマミ族やシピボ族の間で行われ、病気の治癒や未来の予見、コミュニティの指針を得るために使用される。アヤワスカの儀式は、シャーマンが自然の力を引き出し、コミュニティ全体に利益をもたらす手段として非常に重視されている。この神秘的な儀式は、現代でも世界中から注目を集めている。
動物精霊との対話
アマゾンのシャーマニズムでは、動物精霊との対話が重要な要素となっている。シャーマンはトランス状態に入り、ジャガーやワシなどの動物精霊と対話することで、特別な力や知恵を授かるとされる。これらの動物精霊は、シャーマンにとって守護者であり、儀式や治療において欠かせない存在である。特に、ジャガーはアマゾンのシャーマニズムにおいて非常に重要な象徴であり、その力を借りることでシャーマンは病気を癒したり、敵から守ったりする。このように、動物精霊との深い関係は、アマゾンのシャーマンにとって霊的な旅の中心である。
現代社会との関わりと未来
アマゾンのシャーマニズムは、現代社会との関わりの中で新たな展開を見せている。観光業やスピリチュアルな探求者たちがアマゾンを訪れ、アヤワスカの儀式に参加することで、シャーマニズムが世界的な注目を集めている。この現象は、アマゾンの先住民にとって経済的な利益をもたらす一方で、伝統の維持に対する挑戦でもある。シャーマンたちは、伝統を守りながらも、新しい時代に適応する方法を模索している。アマゾンのシャーマニズムは、自然との深い絆を守り続ける一方で、未来に向けて新たな可能性を探っているのである。
第8章: 現代シャーマニズムとネオシャーマニズムの台頭
ネオシャーマニズムの誕生
20世紀後半、ネオシャーマニズムと呼ばれる新しいスピリチュアル運動が西洋で台頭した。これは伝統的なシャーマニズムの要素を取り入れつつ、現代社会の文脈に合わせた形で再構築されたものである。心理学者やスピリチュアルリーダーたちは、古代の知恵を現代の自己啓発やヒーリングに応用し、ネオシャーマニズムとして広めた。特に、アメリカのスピリチュアルコミュニティでは、伝統的な儀式やトランス状態への誘導が、自己探求や内面の癒しを目的としたワークショップやリトリートで活用されるようになった。この動きは、現代人が失われた自然とのつながりを取り戻そうとする試みでもある。
グローバリゼーションがもたらした影響
グローバリゼーションは、シャーマニズムの復興に大きな影響を与えた。インターネットやメディアの発展により、遠く離れた文化や伝統が瞬時に共有され、シャーマニズムもその波に乗った。例えば、南米のアヤワスカ儀式が西洋で広まり、多くの人々が霊的な体験を求めてアマゾンを訪れるようになった。また、シベリアやアフリカのシャーマニズムも同様に、ドキュメンタリーや書籍を通じて広く紹介され、ネオシャーマニズムの発展に寄与している。これにより、シャーマニズムはもはや特定の地域や文化に限定されたものではなく、世界中で新たな形で生き続けている。
サイケデリック文化との融合
ネオシャーマニズムは、1960年代以降のサイケデリック文化とも深く結びついている。この時期、LSDやマジックマッシュルームなどの幻覚剤が、意識の拡張や霊的な探求の手段として注目され、シャーマニズムの儀式と類似した経験を提供するものとして広まった。特に、スタニスラフ・グロフなどの心理学者は、これらの物質を使用したトランスパーソナル心理学を提唱し、精神の深層を探る手法としてシャーマニズム的なアプローチを取り入れた。こうした融合は、ネオシャーマニズムを現代社会においてより魅力的で身近なものにしている。
未来への展望
ネオシャーマニズムは、現代社会におけるスピリチュアルな探求の一環として、今後も進化を続けると考えられる。環境問題や精神的な空白感が深刻化する中で、多くの人々がシャーマニズムの知恵に目を向け始めている。特に、自然との調和やコミュニティの再構築といったシャーマニズムの基本的な教えが、持続可能な社会の構築に役立つと認識されている。また、現代の科学や心理学とのさらなる融合が進むことで、シャーマニズムは新しい形で再解釈され、次世代に受け継がれていくであろう。ネオシャーマニズムの未来は、その柔軟性と適応力にかかっている。
第9章: シャーマニズムと心理学: 心理的な解釈と影響
トランス状態と意識の変容
シャーマニズムにおいて、トランス状態は非常に重要な役割を果たしている。シャーマンがトランス状態に入ることで、霊的な世界とつながり、特別な知識や力を得るとされる。この状態は、現代の心理学においても興味深いテーマとして研究されている。特に、心理学者カール・グスタフ・ユングは、トランス状態が無意識との対話を可能にする手段であると考えた。ユングは、シャーマニズムの儀式が、個人の深層心理と向き合い、心のバランスを取り戻すための重要なプロセスであると主張している。トランス状態は、意識の変容を通じて、個人が内なる世界とつながる方法として理解されている。
シャーマニズムと集合的無意識
ユングが提唱した「集合的無意識」の概念は、シャーマニズムの理解においても重要な視点を提供する。この概念は、すべての人間が共有する無意識の層が存在し、その中には普遍的なシンボルやアーキタイプが含まれているというものだ。シャーマンが行う儀式やトランス状態は、この集合的無意識にアクセスし、コミュニティ全体に影響を与える力を持つと考えられる。たとえば、動物精霊や先祖の霊といった象徴は、異なる文化間で共通して現れることが多く、これらがシャーマニズムの儀式で重要視される理由の一つとされている。
心理療法とシャーマニズムの接点
現代の心理療法においても、シャーマニズムの要素が取り入れられることがある。トランスパーソナル心理学は、シャーマニズムの儀式やトランス状態を、個人の癒しや成長を促進する手段として再評価している。スタニスラフ・グロフは、LSDを用いたセラピーを通じて、シャーマニズム的なアプローチを現代の心理療法に組み込んだ人物である。彼の研究は、精神的な危機やトラウマを乗り越えるための手段として、シャーマニズムの実践がどのように役立つかを示している。このように、シャーマニズムの知識は、現代の治療法にも新たな視点をもたらしている。
未来のシャーマニズムと心理学の融合
今後、シャーマニズムと心理学の関係はさらに深まっていくと考えられる。環境や社会の変化がもたらすストレスや不安に対処するために、シャーマニズムの技術が新たな治療法として注目される可能性がある。特に、自然とのつながりを再確認し、精神的なバランスを取り戻す手段として、シャーマニズムの儀式やトランス状態が活用されるであろう。また、現代のテクノロジーと結びついた新しい形のシャーマニズムが登場し、心理学とのさらなる融合が進むことで、個人とコミュニティの癒しに貢献する新しいアプローチが開発されることが期待されている。
第10章: シャーマニズムの未来: 持続可能なスピリチュアル実践として
環境保護とシャーマニズムの共鳴
現代社会において、環境問題はますます深刻化している。この状況下で、シャーマニズムは自然との調和を重視するスピリチュアルな実践として、環境保護運動と密接に結びついている。シャーマンたちは古来から、自然の精霊と対話し、その力を借りることで、環境を守る役割を果たしてきた。例えば、アマゾンの先住民たちは、熱帯雨林の破壊に対抗し、シャーマニズムの儀式を通じて自然の保護を呼びかけている。こうした動きは、シャーマニズムが現代の環境保護活動においても重要な役割を果たす可能性を示している。
都市化社会におけるシャーマニズムの再評価
都市化が進む現代社会において、人々は自然から切り離された生活を送ることが多い。このような状況下で、シャーマニズムが再評価されつつある。特に、都市部の若者たちは、ストレスや精神的な疲労を癒す手段として、シャーマニズムに注目している。彼らは、シャーマニズムの儀式を通じて自然とのつながりを取り戻し、精神的なバランスを保つことを目指している。また、都市部におけるコミュニティガーデンやエコビレッジのようなプロジェクトは、シャーマニズムの理念を取り入れ、人々が自然と共生する新しいライフスタイルを提供している。
科学技術との融合と新たな展望
現代の科学技術の進歩は、シャーマニズムにも新たな可能性をもたらしている。バーチャルリアリティ(VR)や拡張現実(AR)といった技術が、シャーマニズムの儀式やトランス状態の体験をシミュレートする手段として活用され始めている。これにより、従来のシャーマニズムの実践が新しい形で再解釈され、都市部や異文化圏の人々にも広がりつつある。また、心理学や神経科学との連携により、シャーマニズムの効果が科学的に検証されることで、その信頼性が高まり、さらなる普及が期待される。未来のシャーマニズムは、科学技術との融合によって新たな進化を遂げるだろう。
グローバル化時代におけるシャーマニズムの役割
グローバル化が進む現代において、シャーマニズムは世界各地で異なる文化をつなぐ架け橋としての役割を果たしている。伝統的なシャーマニズムは、各地域の文化や風習に根ざしていたが、グローバル化により異文化間の交流が活発になる中で、シャーマニズムも多様な形で発展している。特に、国際的なスピリチュアルコミュニティがシャーマニズムを共有し、世界中の人々がその知恵を学ぶことで、文化の違いを超えた共通のスピリチュアルな基盤が形成されつつある。シャーマニズムは、今後も異文化理解の促進やグローバルな共生の実現に向けて重要な役割を担っていくであろう。