基礎知識
- 杜牧の生涯と官僚としての活動
杜牧（803年–852年）は、晩唐の詩人であり、官僚としても活躍し、地方行政や軍事政策にも関与した人物である。 - 杜牧の詩風と文学的特徴
杜牧の詩は、鋭い歴史観や感傷的な情緒を特徴とし、特に七言絶句に優れ、壮大な歴史詠や繊細な恋愛詩を残した。 - 杜牧の歴史観と政治思想
彼は唐王朝の衰退を憂い、歴史から教訓を得ようとする姿勢が強く、『樊川文集』にはその政治的洞察が多く記されている。 - 杜牧の軍事論と「赤壁の戦い」考察
『赤壁の戦い』に関する杜牧の見解は特に有名で、彼は曹操の敗因を戦術ではなく補給線の問題にあると分析した。 - 杜牧の影響と後世の評価
杜牧の詩や随筆は後世の文学者に影響を与え、特に宋代の蘇軾や辛棄疾に強く影響を与えたと考えられる。
第1章 杜牧とは何者か？—詩人・官僚・歴史家の三つの顔
貴族の家に生まれた俊英
杜牧は803年、唐の名門に生まれた。彼の家系は代々高官を輩出しており、祖父の杜佑は『通典』を編纂した知識人であった。幼い頃から書物に囲まれた杜牧は、古典文学や歴史に深く親しみ、やがて優れた詩才を発揮するようになる。唐王朝はすでに衰退の兆しを見せていたが、杜牧はこの国の未来を憂い、学問を武器に世を救おうと志す。やがて彼は科挙試験に合格し、若くして官僚の道を歩み始める。詩人でありながらも政治に関心を持ち続けた杜牧の人生は、激動の時代とともに大きく揺れ動いていくことになる。
政治の渦に巻き込まれて
唐の政治は杜牧が生きた時代、混乱の極みにあった。安史の乱（755–763）の傷跡は深く、地方では節度使と呼ばれる軍閥が権力を握り、皇帝の統治は弱体化していた。杜牧は官僚として各地を転々とし、地方行政に携わるが、そこでは汚職や無能な官吏たちが跋扈していた。彼はこれを嘆きつつも、強い正義感を持って職務を全うしようと努めた。しかし、彼の理想主義は往々にして政治の現実と衝突する。中央政府での昇進を期待されながらも、政治闘争の渦に巻き込まれ、失望とともに地方に左遷されることも少なくなかった。
詩の中に込められた歴史の視点
杜牧の詩は、単なる美辞麗句の羅列ではない。彼の作品には、歴史への深い洞察と、衰退しつつある唐王朝への憂慮が込められている。例えば「赤壁」の詩では、三国時代の曹操の敗北を取り上げるが、これは単なる古戦場の描写ではなく、唐の没落と重ね合わせたものである。また、「江南春」では戦乱の荒廃を前に、かつての栄華を懐かしむ詠嘆がにじむ。杜牧の詩は、歴史と現在を結びつけることで、時代の流れの中に人間のはかなさを映し出す。その視点は、後の宋代の詩人たちにも影響を与えることになる。
歴史家としてのまなざし
杜牧はまた、歴史家としての顔も持っていた。彼の随筆や評論には、冷静な史観が息づいている。特に彼の「樊川文集」には、唐の衰退を分析した鋭い論考が含まれる。例えば、彼は節度使の専横を批判し、王朝の衰亡を招いた原因として行政の腐敗を指摘した。さらに、彼は三国時代の戦争についても独自の考察を加え、「赤壁の戦い」に関する彼の見解は後世に大きな影響を与えた。詩人として、官僚として、そして歴史家として生きた杜牧の人生は、単なる文学の枠を超え、広い視野で時代を見つめたものであった。
第2章 杜牧の詩世界—感傷と歴史が交差する表現
七言絶句の名手、杜牧
唐代の詩は、五言や七言の形式で洗練され、多くの詩人たちがそれぞれの個性を発揮した。その中で、杜牧は特に七言絶句に優れた詩人である。彼の詩は、短い中にも壮大な情景や深い思索を凝縮させる力があった。例えば、「山行」では秋の山道を歩く情景を鮮やかに描き、「遠上寒山石径斜（遠く寒山に上れば石の小道は斜めに伸び）」と始まるその詩句は、今なお中国文学の名作として知られる。彼の詩は、視覚的な美しさと哲学的な深みを併せ持ち、読む者を一瞬にしてその世界へ引き込む魅力がある。
恋愛詩と風景詩—繊細な感情の表現
杜牧の詩のもう一つの特徴は、感傷的で繊細な恋愛詩や風景詩を多く残している点である。「遣懐」では、若き日の恋を回想しつつ、過ぎ去った時間の儚さを詠う。「十年一覚揚州夢（十年の間、まるで一夜の夢のように揚州の日々は過ぎた）」という詩句は、歓楽の街・揚州での青春の日々が一瞬にして消え去ったことを表現し、多くの人の共感を呼ぶ。また、「江南春」では、「千里鶯啼緑映紅（千里の範囲で鶯が鳴き、緑が紅を引き立てる）」と、春の江南の風景を鮮やかに描く。杜牧は、風景や恋愛を通して人生の喜びと哀しみを詩に込めたのである。
歴史詠の視点—過去から未来を読む
杜牧の詩には、歴史をテーマにした作品も多い。彼は単なる事実の描写ではなく、歴史を通じて現代への警鐘を鳴らしていた。「赤壁」では、三国時代の有名な戦いを詠み、「東風不与周郎便（東風がもし周瑜に味方しなかったら）」と、偶然の要素が勝敗を左右したことを示唆する。これは、杜牧自身が戦略や歴史の流れを深く理解していたことを物語る。また、「過華清宮」では、楊貴妃を溺愛した玄宗皇帝の過ちを批判し、「長恨春風無限情（春風は無限の情を持っているが）」と、歴史の教訓を詩の形で表現している。彼の歴史詩は、過去から学ぶべき教訓を今に伝えている。
杜牧の詩の魅力—時代を超えるメッセージ
杜牧の詩は、単なる美辞麗句ではなく、時代を超えて人々の心を打つメッセージを持つ。「清明」では、清明節の日に雨が降る情景を描きながら、亡き人への哀悼を詠んでいる。「清明時節雨紛紛（清明の時節には雨がしきりに降る）」という詩句は、中国文化の中で広く引用され、春の哀愁を象徴する表現となった。杜牧の詩は、戦争、愛、自然、歴史といった普遍的なテーマを扱い、現代の読者にも深い共感を呼び起こす。その言葉は、千年以上の時を経てもなお、新しい意味を持ち続けているのである。
第3章 杜牧の歴史観—唐の興亡と未来への警鐘
衰退する帝国を見つめて
杜牧が生きた唐の後期は、かつての繁栄が影を潜め、衰退の色が濃くなっていた。安史の乱（755–763）以降、皇帝の権威は弱まり、地方の節度使が独自の軍事力を持ち、中央の統治は形骸化していた。加えて、宦官の政治介入や財政の悪化が帝国をさらに混乱させた。杜牧はこうした状況を冷静に観察し、「国の滅亡は一夜にして起こるのではなく、徐々に積み重なった腐敗の結果である」と考えた。彼の詩や随筆には、単なる感傷ではなく、歴史の流れを深く見つめる視点が込められている。
戦乱の傷跡と民衆の苦しみ
唐の後期、中国全土は度重なる戦乱に苦しめられていた。特に、藩鎮と呼ばれる地方軍閥が独立した勢力を築き、皇帝の命令を無視することが常態化していた。杜牧は官僚として各地を巡る中で、戦火に焼かれた都市や荒廃した田畑を目の当たりにした。彼の詩「江南春」には、「千里鶯啼緑映紅（水辺には鶯が鳴き、緑の中に赤い花が映える）」という美しい描写があるが、その裏には戦乱によって消え去った平和な時代への哀愁がにじむ。彼は、政治の腐敗がもたらす民衆の苦しみを深く憂えていたのである。
杜牧の統治論—理想と現実の狭間で
杜牧は、唐王朝の復興を願いながらも、現実の政治の限界をよく理解していた。彼は随筆の中で、「政治の根本は、賢明な人材の登用と公正な行政にある」と述べている。しかし、当時の朝廷では宦官が権力を握り、有能な官僚が排除されることが多かった。彼は、法を厳格に適用し、腐敗した役人を処罰することで国家を立て直すべきだと主張したが、そうした改革が実現することはなかった。彼の考えは理想に満ちていたが、時代の現実はそれを受け入れるほど甘くはなかったのである。
「樊川文集」に刻まれた警鐘
杜牧は詩だけでなく、「樊川文集」という随筆集の中で、唐の衰退の原因を分析している。彼は、安史の乱の影響や宦官の横暴、財政の崩壊が唐王朝を衰えさせたと指摘した。また、彼は歴史の流れを見極め、未来の政治家たちへの教訓として、「強い国を作るためには、戦略的な思考と誠実な統治が不可欠である」と述べている。杜牧の言葉は、唐の終焉が近づく中で、後の世に向けた警鐘となっていたのである。
第4章 「赤壁の戦い」—杜牧の独自の軍事論
杜牧が見た「赤壁の戦い」
三国時代の「赤壁の戦い」は、中国史上最も有名な戦の一つである。曹操が圧倒的な大軍を率いて南下し、孫権・劉備の連合軍と戦ったこの戦いは、後世に多くの物語を生んだ。しかし、杜牧はこの戦いを一般的な英雄譚とは異なる視点で見ていた。彼の詩「赤壁」では、「東風不与周郎便（もし東風が周瑜に味方しなかったなら）」と、勝敗の決め手が天候にあったことを示唆している。つまり、彼はこの戦を純粋な戦術の勝利ではなく、自然や補給の要因が大きく影響した戦いとして分析していたのである。
補給線と戦略—曹操の敗因とは
杜牧は曹操の敗北の原因を、単に火攻めにあったとする一般的な見解とは異なる視点で捉えていた。彼によれば、曹操は長江を越える前に兵站（補給線）を確保するべきだったが、それを怠ったため、南方の湿気や疫病により兵士の士気が著しく低下した。また、北方育ちの曹操軍は水軍の戦いに慣れておらず、慣れない船上で戦うことが大きなハンデとなった。杜牧はこの点を批判し、「どれほどの軍勢を持っていても、地理と補給を無視すれば勝利はおぼつかない」と結論づけた。
曹操の失策と杜牧の視点
杜牧は「赤壁の戦い」の本質を、戦術の巧拙ではなく戦略の誤りと捉えた。曹操は短期間で戦を決しようとし、兵糧の備えを怠った。さらに、敵を侮りすぎていたことも敗因であった。孫権や劉備が決して従わないことを理解せず、統一を急いだ結果、無理な戦を仕掛けてしまったのだ。杜牧はこのことから、戦争には慎重な計画と冷静な状況判断が不可欠であると説いた。彼の分析は、単なる歴史の解釈を超え、政治や軍事における普遍的な教訓を示している。
後代への影響—杜牧の軍事論の意義
杜牧の「赤壁」論は、後の時代にも影響を与えた。宋代の軍略家たちは、彼の視点を参考にして補給線の重要性を説き、兵站を重視する戦略を採用した。特に、南宋の岳飛は戦場での補給を慎重に計画し、杜牧の考えを実践したとされる。また、彼の視点は単なる戦史研究にとどまらず、国家運営にも応用され、後世の政治家に影響を与えた。杜牧は、詩人でありながらも歴史を深く洞察し、戦略の本質を見抜いた人物であったのである。
第5章 杜牧の政治思想—儒家か、それとも革新者か？
儒家としての杜牧—理想の政治を求めて
杜牧は、儒家の学問を深く学び、それを政治の基盤と考えていた。儒家思想の基本は「仁」と「礼」であり、君主は徳をもって民を導くべきだとする。しかし、杜牧は単なる理想主義者ではなかった。彼は、唐王朝が形式的な儒教政治に固執しすぎた結果、腐敗が進み、社会の混乱を招いたと見ていた。そこで、彼は伝統的な儒教の枠組みを重視しつつも、より実用的な政治を模索した。彼の随筆には、「理想の君主は知恵と決断力を持ち、ただ儒学の教えを繰り返すだけでは国家を治めることはできない」といった鋭い指摘が散りばめられている。
改革者としての杜牧—現実を直視する視点
杜牧は、唐の衰退を目の当たりにしながら、政治改革の必要性を痛感していた。彼の政治思想の中で最も重要なのは、法治の強化である。当時の官僚制度は腐敗し、賄賂が横行していた。杜牧は「官吏が私利私欲に走るなら、どれほどの名君がいても国は救えない」と主張し、厳格な法の適用を求めた。また、財政の立て直しも重要な課題と考えた。無駄な支出を減らし、経済を安定させることで国を強くするべきだと説いた。彼の考えは、現代の行政改革にも通じる視点を持っていた。
地方行政への影響—実務家としての手腕
杜牧は中央の政治だけでなく、地方行政にも深い関心を持っていた。彼は複数の地方官として赴任し、現地の状況を観察しながら政策を実行した。彼の行政手腕は実務的で、税制の簡素化や治安の強化に取り組んだ。例えば、揚州に赴任した際には、商業の活性化に注力し、経済の発展を促した。彼は、政治家が実際に民の暮らしを理解しなければ、どんな改革も絵空事に終わると考えていた。そのため、彼の政策は理想論ではなく、現場に即した実践的なものであった。
杜牧の政治思想の遺産—後世への影響
杜牧の政治思想は、彼の死後も多くの知識人に影響を与えた。特に、宋代の政治家や学者たちは彼の行政改革の視点を参考にした。蘇軾や王安石といった改革派の知識人は、杜牧のように現実を見据えた政策を重視した。また、彼の「法治の強化」と「実務的な政治」の考え方は、後の時代の統治にも影響を与えた。杜牧は詩人として有名であるが、彼の政治思想もまた、後の時代を動かす重要な要素となったのである。
第6章 杜牧のライバルと同時代人たち—白居易との比較
晩唐の詩壇—名だたる詩人たち
杜牧が活躍した晩唐の時代は、多くの才能ある詩人が競い合う時代でもあった。彼の同時代には、繊細な情感を詠む李商隠、道教的な哲学を詩に取り入れた温庭筠（おんていいん）、そして庶民にも人気のあった白居易がいた。詩はただの文芸ではなく、時に政治批判の手段であり、人々の心を映す鏡でもあった。そんな中で、杜牧は知的で歴史意識の強い詩風を貫き、洗練された七言絶句を得意とした。一方で、白居易は日常生活や社会問題を鋭く捉え、分かりやすい表現で広く読まれた。
白居易の「平易な詩」と杜牧の「知的な詩」
白居易は、詩は「老人でも子どもでも理解できるべきだ」と考え、簡潔で親しみやすい表現を好んだ。彼の「長恨歌」は、楊貴妃と玄宗皇帝の悲恋を叙情的に描き、庶民から貴族まで広く愛された。一方、杜牧の詩はより哲学的であり、歴史や政治への洞察を含むものが多い。例えば、「赤壁」では三国時代の戦略を詠みながら、唐の政治の行方を暗示する。一見すると同じ詩人でありながら、二人の作品は異なる層の読者に向けられていたのである。
詩風の違い—個人の感情か、歴史の教訓か
白居易は庶民の目線で社会を見つめ、「新楽府」などの詩では社会の矛盾を痛烈に批判した。例えば「売炭翁」では貧しい炭売りの苦労を描き、政府の圧政を訴えた。それに対して、杜牧は詩の中で個人の感情を超え、歴史を俯瞰する視点を持っていた。彼の「江南春」は、戦乱による衰退の中でも美しい景色が広がることを詠み、時代の無常を感じさせる。二人の詩風の違いは、社会を見る角度の違いでもあった。
杜牧と白居易—どちらが後世に影響を与えたか？
白居易の詩は、庶民にも理解しやすかったため、宋代以降の詩人に大きな影響を与えた。一方で、杜牧の歴史詩や政治的な視点は、後の知識人層に重く受け止められた。特に宋代の蘇軾は杜牧の影響を受け、歴史を踏まえた詩作を行った。さらに、杜牧の軍事論的な視点は、兵法家たちにも評価された。結果として、白居易の詩は一般読者に親しまれ、杜牧の詩は知識人や政治家の思考に影響を与えた。それぞれ異なる形で後世に名を刻んだのである。
第7章 杜牧の文集『樊川文集』—詩だけではない彼の思想
『樊川文集』とは何か？
杜牧といえば詩人としての名声が高いが、彼の思想を深く知るには『樊川文集』を読むことが欠かせない。この文集は、彼の随筆や評論を集めたもので、唐の政治や歴史に対する鋭い洞察が記されている。彼は単なる文学者ではなく、国家の行く末を憂う知識人でもあった。『樊川文集』には、時の権力者への批判や、歴史から学ぶべき教訓が綴られており、当時の唐王朝の問題点を浮き彫りにしている。杜牧は、詩だけではなく、言葉の力で社会を変えようとしたのである。
戦乱と政治への洞察—鋭い歴史批判
『樊川文集』の中には、戦乱と政治についての鋭い分析が多く見られる。例えば、彼は安史の乱がもたらした影響について論じ、その混乱がいかに唐王朝を衰退させたかを明確に述べた。また、当時の宦官政治に対しても強い批判を展開し、「宦官の専横こそが、王朝の根本的な病である」と指摘した。杜牧は、歴史を単なる過去の出来事としてではなく、未来の指針として捉えた。彼の考え方は、後の宋代の知識人たちにも影響を与え、政治を学ぶ者にとっての貴重な教訓となった。
文学批評家としての杜牧
杜牧は政治や歴史だけでなく、文学批評家としての一面も持っていた。彼は李白や杜甫といった偉大な詩人たちの作品を分析し、詩とは何かを深く考察した。例えば、彼は李白の詩を「天才的な奔放さを持つが、時に無軌道である」と評し、杜甫の詩を「社会の苦しみを映し出した傑作」と評価した。彼自身の詩論も展開し、「詩は知性と感情のバランスが取れていなければならない」と述べた。杜牧の文学批評は、後の時代の詩人たちにとっても重要な指針となった。
『樊川文集』が伝えるメッセージ
『樊川文集』は、単なる評論集ではなく、杜牧が後世に残した重要な遺産である。彼は政治、戦争、歴史、文学について広範な視点を持ち、鋭い筆致でその本質を突いた。彼の言葉は時代を超えて響き続け、現代においても読む価値がある。杜牧は、詩人でありながらも、国家と社会に対して真剣に向き合った知識人だった。その思索の結晶である『樊川文集』は、彼の精神を知るための貴重な手がかりとなるのである。
第8章 杜牧の遺産—宋代以降の評価と影響
宋代における杜牧の再評価
杜牧が世を去った後、その詩と思想は宋代において再び脚光を浴びることとなった。宋の詩人たちは、杜牧の詩が持つ鋭い歴史観と情緒の深さに共鳴した。特に、蘇軾は杜牧の詩を愛し、その簡潔かつ洗練された表現に影響を受けた。宋代は、文学だけでなく学問が発展した時代であり、杜牧の『樊川文集』は政治家や学者の参考書ともなった。戦略や統治についての洞察が含まれていたため、彼の文章は単なる詩集を超え、国家運営の指針としても用いられたのである。
辛棄疾と杜牧の共鳴
南宋の愛国詩人・辛棄疾は、杜牧の詩に強く影響を受けた人物の一人である。辛棄疾は、金の侵攻による国土喪失の悲哀を詠み、杜牧の歴史詩のように、過去と現在を重ね合わせた表現を用いた。杜牧の「赤壁」は三国時代の戦いを詠みながら唐の衰退を暗示したが、辛棄疾の詩もまた、宋王朝の未来を憂うものが多かった。杜牧の視点は、単なる歴史の描写ではなく、現代への警鐘として機能していたのである。
杜牧の影響は日本にも広がる
杜牧の詩と随筆は、日本にも影響を与えた。平安時代には、漢詩を学ぶ貴族たちの間で彼の詩が読まれた。特に、藤原公任が編纂した『和漢朗詠集』には、杜牧の詩が収録されており、平安貴族たちがその詩情を楽しんでいたことがわかる。また、江戸時代には、儒学者や文人たちが杜牧の歴史観に注目し、学問の一環として彼の作品を研究した。杜牧の詩は、国境を越え、東アジアの文学と思想に深く根付いていったのである。
杜牧の詩の普遍性—なぜ今も読まれるのか？
杜牧の詩は、千年以上の時を超えて読み継がれている。その理由は、彼の詩が持つ普遍性にある。歴史の興亡を嘆く詩は、どの時代の人々にも響き、恋愛や自然を詠んだ詩もまた、変わらぬ人間の感情を描いている。さらに、彼の言葉には、単なる美しさだけでなく、知性と洞察が込められている。だからこそ、現代においても彼の詩は新たな意味を持ち続け、多くの人々の心を打つのである。
第9章 杜牧の詩の現代的意義—今に響く彼の言葉
杜牧の詩はなぜ今も読まれるのか？
杜牧の詩は千年以上前に書かれたにもかかわらず、現代の読者の心を打つ。その理由は、彼の詩が普遍的なテーマを扱っているからである。「江南春」に見られる自然の美しさや、「清明」の哀愁、「赤壁」に込められた歴史観は、時代を超えて共感を呼ぶ。特に、変化の激しい現代社会において、杜牧の詩は歴史から学ぶことの重要性を示し、人々に過去を振り返る視点を提供する。彼の詩は単なる文学作品ではなく、生きるための知恵として受け継がれているのである。
現代中国における杜牧の存在感
杜牧の詩は、現代の中国でも多くの人々に親しまれている。学校教育では彼の代表作が必ずと言っていいほど取り上げられ、特に「清明」は春の訪れを象徴する詩として広く知られている。また、観光地では彼の詩が刻まれた石碑が立ち、名勝地の魅力を伝える役割を果たしている。さらに、彼の詩は映画やドラマの台詞に引用され、現代人の感情を表現する手段としても活用されている。杜牧は、過去の詩人でありながら、今なお中国文化の中で生き続けているのである。
杜牧と日本—詩の受容と影響
杜牧の詩は、日本の文学にも影響を与えた。平安時代の貴族たちは、漢詩を学ぶ中で杜牧の作品にも触れており、『和漢朗詠集』には彼の詩が収録されている。江戸時代の儒学者や文人たちも、杜牧の歴史観や詩風を研究し、日本の漢詩に取り入れた。また、現代日本でも彼の詩は漢詩愛好家の間で親しまれ、中国文学を学ぶ人々にとって欠かせない存在となっている。杜牧の詩は、中国だけでなく、日本の文化にも深く根付いているのである。
デジタル時代に広がる杜牧の世界
インターネットの発展により、杜牧の詩は新たな形で広がりつつある。SNSでは彼の詩が引用され、短くも深い意味を持つ詩句が多くの人々に共有されている。また、AIを活用した詩の分析や、杜牧の詩をテーマにしたデジタルアートなど、新たな表現の試みも行われている。杜牧の詩は、静かな書物の中に閉じ込められるのではなく、現代のテクノロジーと融合しながら、新たな形で私たちの前に現れているのである。
第10章 杜牧を読み解く—初心者のためのガイド
まずは代表作を読んでみよう
杜牧の詩を楽しむ第一歩は、彼の代表作をじっくり味わうことである。「山行」は、秋の山道を旅する情景を生き生きと描き、「江南春」では戦乱の後でも変わらぬ春の美しさを詠んでいる。初心者におすすめなのは、「清明」である。「清明時節雨紛紛（清明の時節には雨がしきりに降る）」という詩句は、中国文化の中で春の哀愁を象徴する表現となっている。まずはこうした短い詩を声に出して読んでみると、杜牧の世界に自然と引き込まれていくだろう。
詩の鑑賞ポイント—歴史と情景を感じる
杜牧の詩を読む際には、歴史と自然描写に注目するとよい。彼は三国時代の「赤壁の戦い」を題材にしながら、唐の衰退を暗示する詩を残した。また、「江南春」では、「千里鶯啼緑映紅（千里の範囲で鶯が鳴き、緑が紅を引き立てる）」と、風景の美しさを通じて時代の移り変わりを詠んでいる。彼の詩は、単なる自然描写にとどまらず、歴史への鋭い洞察が込められている。読むときには、その背後にあるメッセージを想像してみると、より深く味わうことができる。
杜牧の詩をもっと楽しむための書籍
杜牧の詩をより深く理解するためには、解説付きの書籍を活用するとよい。たとえば、中国古典詩の入門書には彼の作品が収録されており、注釈や背景知識を学ぶことができる。また、日本語訳と原文が併記された書籍を使えば、漢詩のリズムや言葉の美しさを直接感じられる。さらに、『樊川文集』には、彼の政治や歴史観が詰まった随筆が含まれており、詩とは違った角度から杜牧の思想を知ることができる。
杜牧の世界に親しむ—詩を日常に取り入れる
杜牧の詩をより身近に感じるためには、日常の中で彼の言葉を取り入れるのも一つの方法である。春の訪れを感じたときに「清明」の詩句を思い出し、歴史を振り返る際に「赤壁」を読んでみるとよい。SNSでは杜牧の詩が引用されることも多く、現代の言葉と並べて考えることで、新しい発見があるかもしれない。杜牧の詩は、ただの古典ではなく、今を生きる私たちにも多くの示唆を与えてくれるのである。