ストラテジーゲーム

基礎知識
  1. ストラテジーゲームの起源と発展
     ストラテジーゲームの歴史は古代のボードゲームチェス囲碁)にまで遡り、デジタル化によって新たな形態へと進化したものである。
  2. リアルタイム vs. ターン制の戦略性の違い
     リアルタイムストラテジー(RTS)は迅速な判断力を求め、ターン制ストラテジー(TBS)は熟考による最適解を追求するゲームデザインとなっている。
  3. 軍事理論とストラテジーゲームの関係
     ストラテジーゲームは実際の軍事戦略や歴史的な戦争理論(クラウゼヴィッツの『戦争論』など)と密接に関連しており、戦略シミュレーションの要素が取り入れられている。
  4. 経済・外交要素の重要性
     ストラテジーゲームは単なる戦争シミュレーションではなく、資源管理や外交交渉といった要素がゲームプレイに多大な影響を与える。
  5. AIとプレイヤーの戦略思考
     ストラテジーゲームのAIはプレイヤーの戦略を模倣し、適応することで高度な対戦相手となり、ゲームデザインにおいて重要な役割を果たしている。

第1章 ストラテジーゲームとは何か?

戦略か、戦術か—ゲームに潜む知の戦い

チェスの王を詰みに追い込むとき、プレイヤーは戦術と戦略の両方を駆使している。だが、両者は別物である。戦術とは局所的な手法であり、戦場での部隊の動かし方や敵の隙をつく方法を指す。一方、戦略は長期的な視点で勝利に至る道筋を描くことだ。歴史においても、ナポレオンの大胆な進軍は戦術の妙技であり、ローマ帝国の属州経営は戦略の勝利であった。ストラテジーゲームはこれらをゲームプレイに落とし込み、プレイヤーに知的な挑戦を与えるジャンルである。

リアルタイムか、ターン制か—時間が生むプレイスタイルの違い

ストラテジーゲームには二つの大きな形式がある。リアルタイムストラテジー(RTS)とターン制ストラテジー(TBS)だ。RTSの代表作『StarCraft』では、戦場は常に動き続け、素早い決断力が試される。一方、『Civilization』のようなTBSでは、プレイヤーはじっくりと次の一手を考えることができる。この違いは、戦争における現実世界の意思決定にも通じる。指揮官がその場で判断を下さねばならない戦場と、国家戦略を策定する政治家の違いにも似ている。

ボードゲームの遺産—デジタル時代の祖先たち

ストラテジーゲームの起源はデジタルではなく、はるか昔のボードゲームにある。囲碁は中で四千年以上前に生まれ、領地を奪い合う戦略性の高いゲームとして発展した。チェスインドに起源を持ち、中世ヨーロッパで貴族たちの戦略教育に用いられた。これらのゲームは「先を読む力」を育むものであり、のちのウォーゲームやコンピューターシミュレーションにも大きな影響を与えた。デジタル化によって、これらの知的競技はより複雑に、よりダイナミックに進化していくことになる。

知的挑戦としてのストラテジーゲーム—なぜ人は戦略を楽しむのか

人間はなぜストラテジーゲームに魅了されるのか。その答えは、知的挑戦と達成感にある。ストラテジーゲームは、単なる反射神経ではなく、思考力や計画性が試されるゲームである。強敵を打ち負かす快感、長期的な計画が実を結ぶ満足感、予測不能な相手との駆け引き——これらがプレイヤーを惹きつける。現実世界でも、ビジネスや政治において戦略は不可欠であり、ストラテジーゲームは思考訓練の場にもなり得る。ゲームの中で、私たちは戦略家となり、世界を動かす力を体験するのである。

第2章 ストラテジーゲームの起源—ボードゲームからデジタルへ

古代に生まれた戦略の知恵

人類が最初に「戦略」を遊びに取り入れたのはいつだろうか。最古のストラテジーゲームの一つが、紀元前2500年頃のメソポタミアで遊ばれた「ウル王朝のゲーム」である。これはダイスと駒を使い、戦略と運が絡み合うボードゲームだった。また、囲碁は紀元前2000年頃の中で生まれ、敵の領地を囲い込むシンプルだが奥深いルールを持つ。これらのゲームは、単なる娯楽ではなく、戦争政治における戦略思考の訓練として重視されていた。遊びの中で、人類は未来を見据える力を鍛えてきたのである。

中世の知略—チェスと将棋の台頭

西洋と東洋の戦略ゲームを代表するのが、チェス将棋である。チェスは6世紀頃のインドで「チャトランガ」として誕生し、ペルシャを経てヨーロッパに伝わった。15世紀には現在のルールに近づき、王侯貴族の間で知略を競う遊びとして流行した。一方、将棋平安時代の日で独自の進化を遂げ、取った駒を再利用できるという斬新なルールを持つようになった。これらのゲームは「戦争を卓上で再現するもの」として位置づけられ、のちのウォーゲームやデジタルストラテジーゲームの原型となった。

ウォーゲームの誕生—戦争をシミュレーションする遊び

19世紀プロイセン軍は「クリークスシュピール(戦争ゲーム)」というボードゲームを用いて将校の訓練を行った。これは実際の地図と駒を使い、戦略を試すシミュレーションであった。この手法は各に広まり、第二次世界大戦後には一般向けのウォーゲームへと発展した。1954年にはチャールズ・ロバーツが「Tactics」を発売し、現代の戦略ボードゲームの礎を築いた。これらのウォーゲームは、やがてコンピューターの発展とともにデジタル化され、リアルな戦争シミュレーションとして新たな時代を迎えることになる。

コンピューターと戦略—デジタル化の始まり

1970年代、コンピューター技術の発展により、ストラテジーゲームはデジタルの世界へと移行し始めた。最初期の戦略ゲームの一つが、1962年に開発された『Spacewar!』であるが、より複雑な戦略性を持つ作品として、1978年の『Empire』が登場した。これは都市を占領し、敵を撃破するターン制戦略ゲームであり、多くの後続作品に影響を与えた。1980年代には、シド・マイヤーが『Civilization』シリーズの原型となるゲームデザインを考案し、ストラテジーゲームは格的なデジタル時代へ突入していくのである。

第3章 リアルタイム vs. ターン制—二大ジャンルの戦略性

刻々と変わる戦場—リアルタイムストラテジーの緊張感

リアルタイムストラテジー(RTS)は、まるで指揮官が戦場を駆け巡るかのような緊張感を生み出す。『Dune II』(1992年)はこのジャンルの先駆けであり、プレイヤーは基地を建設し、資源を管理しながら敵との戦闘を同時進行で行う。続く『Warcraft』や『StarCraft』では、瞬時の判断力が勝敗を決める要素となり、戦略を即座に実行するスピードが求められた。RTSはプレイヤーに冷静な決断と瞬発力を要求するジャンルであり、オンライン対戦ではまさに”リアルな戦争”が展開されるのである。

じっくりと考え抜く—ターン制ストラテジーの奥深さ

ターン制ストラテジー(TBS)は、プレイヤーに時間を与え、戦略をじっくり練る楽しさを提供する。『Civilization』シリーズでは、一手ごとに都市を発展させ、外交を進め、軍事計画を立てることができる。この形式は、古典的なウォーゲームやチェスにルーツを持ち、長期的なビジョンと計画性を重視する。また、『X-COM』のような戦術系TBSでは、部隊の配置や行動を熟考し、一つのミスが勝敗を左右する。TBSは、時間をかけて最適な解を導く知的ゲームとして、多くの戦略好きにされ続けている。

脳の使い方が違う—RTSとTBSのプレイスタイルの対比

RTSとTBSは、プレイヤーの思考プロセスにも違いをもたらす。RTSでは、迅速な状況判断と多方面の管理能力が求められる。例えば、『Age of Empires』では、経済と軍事を同時に進行させ、限られた時間で最適な決定を下さねばならない。一方、TBSでは、一手ごとの影響を計算し、長期的な戦略を構築することが重要だ。『Total War』シリーズの戦略マップ部分では、ターン制で帝国の運営を行い、戦術マップではリアルタイム戦闘を指揮する。RTSとTBSの違いは、プレイヤーの脳の使い方にも影響を与えるのである。

どちらが優れているのか?—プレイヤーの好みと進化するジャンル

RTSとTBSのどちらが優れているのかは、プレイヤーの好みによる。瞬発力とアクション性を求めるならRTS、深い戦略性と計画の妙を楽しみたいならTBSが適している。しかし近年では、『Total War』のように両者の要素を融合したハイブリッド型も登場している。さらに、ストラテジーゲームのAI技術が発展し、プレイヤーの選択に応じたダイナミックな戦略環境が生まれつつある。未来のストラテジーゲームは、リアルタイムとターン制の枠を超え、より複雑で知的な体験を提供するものへと進化していくのである。

第4章 軍事理論とストラテジーゲームの関係

戦争は知のゲーム—古代から続く戦略の系譜

戦争は単なる武力のぶつかり合いではなく、知略の勝負である。この考えは紀元前500年の孫子の『兵法』にすでに見られる。孫子は「敵を知り、己を知れば百戦危うからず」と説き、情報と戦略の重要性を強調した。この教えは『Total War』シリーズにも反映され、敵の動向を把握し、戦術を組み立てることが勝利のとなる。戦争をゲームとして捉える発想は、古代から現代に至るまで変わらず、ストラテジーゲームはその縮図といえる。

クラウゼヴィッツの「戦争論」—近代戦争とストラテジーゲーム

19世紀プロイセンの軍人カール・フォン・クラウゼヴィッツは『戦争論』を著し、「戦争政治の延長である」と論じた。この視点は『Hearts of Iron』のような戦略ゲームに濃く反映されている。このゲームでは、軍事力だけでなく外交や経済政策も重要な要素となる。戦争は単独の出来事ではなく、国家全体の動きとして考えなければならない。クラウゼヴィッツの理論は、ストラテジーゲームが単なる戦闘のシミュレーションではなく、より包括的な戦略を求める理由を示している。

リアルな戦争シミュレーション—ゲームと現実の交差点

ストラテジーゲームは、単なる娯楽にとどまらず、実際の戦争の研究にも応用されている。アメリカ国防総省は『Harpoon』という海戦シミュレーションゲームを軍事訓練に使用し、現代の軍事作戦のシミュレーションにも活用した。『Command: Modern Operations』のようなゲームでは、実際の兵器や戦術が忠実に再現されており、リアルな戦略シミュレーションが可能だ。こうしたゲームの高度な計算モデルは、軍事専門家の戦略研究にも役立っているのである。

ストラテジーゲームが育む戦略的思考—プレイヤーは指揮官になれるか?

ストラテジーゲームは、プレイヤーに戦略的な思考を養わせる。『X-COM』では、部隊の配置やリスク管理が勝敗を左右し、『Crusader Kings』では、外交や後継者問題まで考慮しなければならない。これらのゲームは、単なる戦争の模倣ではなく、意思決定のトレーニングの場ともなる。戦略とは、戦場だけでなく、ビジネスや日常生活にも応用可能なスキルであり、ストラテジーゲームはその訓練を楽しく提供する手段なのだ。

第5章 資源管理と外交—戦争だけが戦略ではない

資源こそが勝敗を決める—戦略の裏にある経済

戦争武器だけでなく、資源の管理によっても決まる。『Civilization』シリーズでは、石油といった資源の確保が軍事力の拡大に直結する。現実でも、第二次世界大戦においてドイツ石油不足に悩まされ、日が南方資源を求めたことは戦略の根幹をなしていた。ストラテジーゲームでは、資源を無駄遣いすれば力は衰え、適切に管理すれば長期的な支配が可能となる。経済と戦争は切り離せない関係にあり、資源の運用こそが国家の命運を左右するのである。

内政の重要性—国を強くするのは戦争だけではない

戦争がすべてではなく、内政もまた勝利のとなる。『Tropico』では、プレイヤーは独裁者としてインフラを整備し、民の満足度を管理する。一方、『Europa Universalis』では、科学技術の発展や文化の影響力も重要な要素となる。現実世界でも、戦争を回避しながら経済力を蓄えたイギリスオランダのような国家は、軍事だけでなく内政の巧みさによって繁栄を築いた。ストラテジーゲームは、単なる戦争シミュレーションではなく、の発展を計画する経営シミュレーションでもあるのだ。

外交戦略—戦わずして勝つ道

戦争をせずに勝つこともまた戦略である。『Crusader Kings』では、結婚による同盟や裏切りが国家運営に大きく影響する。『Total War』では、貿易協定や和平交渉を活用することで、武力衝突を避けながらを強くすることが可能だ。歴史を見ても、メッテルニヒの会議外交や冷戦時のソの駆け引きのように、交渉が戦争以上に重要な局面もあった。ストラテジーゲームは、軍事だけではなく、言葉と取引を駆使する外交戦の醍醐味をもプレイヤーに体験させるのである。

リスクと報酬—いつ戦い、いつ引くべきか

戦争にはコストがある。『Hearts of Iron』では、無計画な戦争が経済を疲弊させ、兵站不足が敗北を招く。一方、『Risk』のようなボードゲームでは、攻めるべきか撤退するべきかの判断がゲームの暗を分ける。現実でも、ナポレオンロシア遠征やヒトラーのバルバロッサ作戦は、過信による資源の浪費と補給線の崩壊が敗因となった。ストラテジーゲームでは、戦争を始める決断以上に、撤退や和平のタイミングを見極める力が求められるのである。

第6章 AIの進化—コンピューターとの戦い

最初の挑戦者—AIはどのようにゲームを学んだのか

ストラテジーゲームにおけるAIの歴史は、シンプルなルールを持つボードゲームから始まった。1950年代、数学クロード・シャノンチェスをプレイするコンピューターの概念を提唱し、1960年代にはIBMが「Deep Thought」を開発した。初期のAIは固定されたルーチンに基づいて動作し、プレイヤーの行動に柔軟に対応することはできなかった。だが、ゲームの複雑化とともにAIのアルゴリズム進化し、戦略的な判断を下せるようになっていった。コンピューターが人間の知性に挑む時代の幕開けである。

RTS vs. AI—瞬時の判断を求められる戦い

リアルタイムストラテジー(RTS)では、AIは圧倒的な計算速度を誇るが、人間の柔軟な戦略には太刀打ちできなかった。『StarCraft』では、AIは資源管理やユニットの生産を正確に行うが、プレイヤーの奇襲やフェイントには簡単に翻弄された。しかし、Googleの「AlphaStar」はディープラーニングを活用し、プロプレイヤーに勝利するまで進化を遂げた。これは単なるプログラムではなく、経験を積み学習するAIの誕生を意味している。ストラテジーゲームは、AIが人間の創造力を理解する場となったのである。

ターン制ストラテジーの知的戦い—AIが長期戦を学ぶ

ターン制ストラテジー(TBS)では、AIは未来を予測し、長期的な計画を立てることが求められる。『Civilization』シリーズのAIは、外交や経済の管理を行うが、プレイヤーの奇策に対応するのは苦手であった。ところが、近年のAIは強化学習によって柔軟な戦略を身につけつつある。GoogleのAlphaGoが囲碁のプロ棋士を破ったように、ストラテジーゲームでもAIはプレイヤーを上回る思考力を獲得しつつある。これにより、人間とAIの戦いはますます白熱していくのである。

未来のAIはプレイヤーの最高のライバルとなるのか

AIは進化し続けており、未来のストラテジーゲームでは、プレイヤーの行動を分析し、個別の対策を講じる「適応型AI」が登場するかもしれない。『Total War』シリーズでは、AIがプレイヤーの戦術を学習し、異なる戦法を試す機能がすでに実装されている。さらに、AIがプレイヤーと協力し、共に成長するシステムも開発されつつある。人間とAIの関係は単なる競争から共存へと変わり、新たな戦略の可能性が広がっていくのである。

第7章 名作ストラテジーゲームの系譜

すべての始まり—『Dune II』が築いた戦略ゲームの土台

1992年、『Dune II』はリアルタイムストラテジー(RTS)というジャンルを確立した。プレイヤーは資源を集め、基地を建設し、軍を指揮して敵を打ち破る。このシステムは後の『Warcraft』や『Command & Conquer』にも引き継がれ、RTSの基ルールとなった。特に『Dune II』の「Fog of War(戦場の霧)」の概念は、戦場の視界を制限するという革新的な要素を導入した。このゲームの登場が、戦略シミュレーションをリアルタイムで操作する新たな時代を切り開いたのである。

帝国を築く楽しさ—『Civilization』とターン制戦略の進化

1991年、シド・マイヤーの『Civilization』はターン制ストラテジー(TBS)の代表作となった。プレイヤーは文の指導者となり、都市を発展させ、技術を研究し、外交を駆使しながら勝利を目指す。このゲームの魅力は「一手が未来を変える」という要素にある。戦争だけでなく、文化や経済も勝利のとなる点が画期的であった。続編の『Civilization VI』ではAI指導者が個性を持ち、プレイヤーの行動に応じて外交方針を変えるなど、より深い戦略性が追求されている。

戦場を支配せよ—『Total War』シリーズのリアルな戦争

2000年に登場した『Shogun: Total War』は、ターン制の戦略とリアルタイムの戦闘を融合させた作品である。プレイヤーは日戦国時代を舞台に、内政を管理しつつ戦場では軍を指揮する。このシリーズの特徴は、史実に基づいた精密な戦闘システムと、戦術の自由度の高さにある。『Total War: Rome』や『Total War: Three Kingdoms』では、兵士たちの士気や地形が戦況に影響を与えるため、単なる戦力のぶつかり合いではなく、物の軍略が試されるのである。

新たな戦略の形—現代のストラテジーゲームの進化

ストラテジーゲームは単なる戦争シミュレーションを超え、多様なジャンルと融合している。『XCOM』はターン制戦術とSFを組み合わせ、エイリアンとの戦いを描いた。『Crusader Kings III』では、戦争だけでなく、結婚や陰謀が政治に影響を及ぼし、まるで中世の宮廷ドラマを体験するかのような要素が加わった。近年では、AIの進化によってプレイヤーの行動に適応する知的な敵が登場し、ストラテジーゲームの可能性はさらに広がり続けているのである。

第8章 ストラテジーゲームの文化的影響

戦略を学ぶ教室—教育ツールとしてのストラテジーゲーム

ストラテジーゲームは単なる娯楽ではなく、教育の場でも活用されている。『Civilization』シリーズは、歴史や政治を学ぶための教材として学校で導入されることがある。プレイヤーは文を発展させる過程で、実際の歴史的な出来事や指導者の決断を疑似体験できる。例えば、科学技術の研究や外交交渉を通じて、歴史的な因果関係を理解できるのだ。教育者の間では、こうしたゲームが批判的思考力や問題解決能力を育むツールとして注目されており、新しい学びの形を提供している。

軍事戦略とシミュレーション—ゲームが現実を変える

ストラテジーゲームの影響は軍事分野にも及んでいる。軍は『Harpoon』や『Command: Modern Operations』を戦略シミュレーションとして使用し、実際の戦場に近い環境で意思決定を訓練している。さらに、『Arma』のようなリアルな戦闘シミュレーションゲームは、兵士の戦術訓練にも応用されている。戦争のシミュレーションは、歴史的な戦闘の研究や軍事戦略の検討にも役立ち、ストラテジーゲームは単なる仮想の戦いを超え、現実の戦略思考に影響を与えているのである。

Eスポーツと競技シーン—ストラテジーはプロの戦場へ

ストラテジーゲームは、Eスポーツの舞台でも存在感を示している。特に『StarCraft』シリーズは韓国でプロリーグが生まれ、多くのプレイヤーが世界王者を目指して競い合った。RTSは一瞬の判断が勝敗を左右し、プロ選手の動きはまるでチェスの名手が指すかのように精密である。また、『Auto Chess』や『Teamfight Tactics』のような新しいタイプのストラテジーゲームも登場し、戦略性の高さを武器に競技シーンを拡大している。ゲームの世界は、戦場からスポーツへと進化を遂げているのだ。

物語を紡ぐストラテジー—歴史と文化への影響

ストラテジーゲームは、歴史の再解釈を促し、新たな視点を提供する。『Europa Universalis』では、プレイヤーが歴史の流れを変えることができ、史実と異なるシナリオを生み出すことが可能である。さらに、『Crusader Kings III』のようなゲームでは、家系の継承や陰謀が複雑に絡み合い、中世ヨーロッパのリアルな政治を体験できる。こうしたゲームは、プレイヤーに歴史や文化の奥深さを感じさせ、ストーリーを自ら作り上げる楽しさを提供するのである。

第9章 ストラテジーゲームの未来—AIとプレイヤーの新たな戦場

人工知能が導く次世代の戦略

AIの進化はストラテジーゲームの未来を大きく変えつつある。かつてのゲームAIは単純なスクリプトに従って動いていたが、近年の機械学習技術によりプレイヤーの行動に適応する能力を獲得した。『Total War』シリーズの最新作では、AIが戦況に応じて異なる戦略を試みるようになっている。また、Googleの「AlphaStar」が『StarCraft II』のプロプレイヤーを破ったことは、AIがリアルタイム戦略の領域でも人間に匹敵する力を持ち始めていることを示している。

VRとARが切り開く戦略の新次元

仮想現実(VR)と拡張現実(AR)は、ストラテジーゲームに新たな可能性をもたらしている。『Tabletop Simulator』のように、VRを活用すれば物理的な制約なしにボードゲームをプレイできる。また、AR技術を応用すれば、リビングルームのテーブル上に戦場を投影し、指で部隊を移動させることも可能になる。未来のストラテジーゲームは、単なる画面上の戦略ではなく、まるで現実の指揮官になったかのような没入感をプレイヤーに提供するだろう。

クラウドとマルチプレイの進化—リアルな戦場へ

クラウドゲーム技術の進歩により、膨大なデータを瞬時に処理できる環境が整いつつある。これにより、大規模なマルチプレイ戦略ゲームが可能となり、世界中のプレイヤーが1つの巨大な戦場で戦うことも現実味を帯びている。『Hearts of Iron IV』のようなゲームでは、歴史的な戦争十人のプレイヤーが協力して再現することが可能になった。今後は、AIと人間が共存する戦場が生まれ、リアルタイムで変化するダイナミックなゲーム体験が実現するだろう。

ストラテジーゲームはどこへ向かうのか

ストラテジーゲームの進化は止まらない。AI、VR、クラウド技術の発展によって、より知的で、より没入感のあるゲームが登場することは間違いない。しかし、変わらないのは「思考する楽しさ」である。プレイヤーが計画を立て、資源を管理し、相手の裏をかく楽しさこそが、このジャンルの質だ。未来のストラテジーゲームがどのような形になろうとも、それはプレイヤーの知恵と創造力を試す舞台であり続けるのである。

第10章 戦略的思考を鍛える—ストラテジーゲームの学び方

ゲームが教える決断力—一手の重みを知る

ストラテジーゲームでは、一つの決断がゲーム全体の流れを左右する。『Civilization』では、序盤にどこに都市を建てるかが、後の繁栄を決定づける。『XCOM』では、1マスの移動が戦局を変え、部隊の生を分けることさえある。こうした決断を繰り返すことで、プレイヤーはリスク管理や長期的な視点を養う。これは実生活にも応用できるスキルであり、問題解決の思考力を磨く絶好の機会となる。ゲームの中で鍛えた決断力は、現実世界でも大いに役立つのである。

情報戦の極意—相手の手を読む力を養う

ストラテジーゲームにおいて、相手の意図を読むことは勝利へのとなる。『Total War』シリーズでは、敵の軍隊の動きを観察し、どの都市を狙っているかを予測する必要がある。『StarCraft』では、偵察を怠れば相手の奇襲に対応できず、試合は一瞬で終わる。情報収集と分析は、ゲームだけでなく、ビジネスや交渉などあらゆる場面で求められるスキルである。ストラテジーゲームは、プレイヤーにデータを分析し、最適な行動を導き出す能力を磨かせるのである。

負けから学ぶ—失敗を糧にする戦略的思考

ストラテジーゲームでは、敗北こそが最良の教師となる。『Crusader Kings III』では、王位を奪われることもあるが、それを教訓に次世代の計画を練ることができる。『Europa Universalis IV』では、一度の外交ミスがの崩壊を招くが、やり直すことでより強い国家を築くことができる。ゲームの失敗は、原因を分析し、改策を考える機会となる。これは現実の試験や仕事、人生そのものにも当てはまる。戦略的思考とは、失敗から学び、次に活かす力なのだ。

ゲームで培うリアルスキル—戦略は現実でも役に立つ

ストラテジーゲームの思考法は、ビジネス、政治スポーツなどさまざまな分野で応用できる。『Football Manager』では、クラブ経営の戦略が求められ、実際のサッカーチームの監督も参考にすることがある。『Hearts of Iron IV』では、戦争だけでなく、外交や経済の管理能力も試される。これらのゲームを通じて鍛えた戦略的思考は、現実の問題解決にも活かせるのだ。ゲームは単なる娯楽ではなく、知的なスキルを鍛えるトレーニングでもあるのである。