基礎知識
- 市民革命の定義と重要性
市民革命とは、近代市民社会を成立させる契機となった政治的、社会的変革であり、権力の基盤が封建制度から市民層へと移行する出来事である。 - イギリス革命（清教徒革命と名誉革命）
17世紀のイギリスで起きた一連の革命は、議会主義の確立と立憲君主制の成立をもたらした。 - フランス革命
1789年に始まるフランス革命は、絶対王政を崩壊させ、自由・平等・博愛という近代的価値観を定着させた。 - アメリカ独立革命
アメリカ独立革命（1775-1783）は植民地から主権国家への転換であり、民主主義の基盤を築いた。 - 市民革命の思想的背景
啓蒙思想や社会契約論など、市民革命を支えた思想が近代政治思想の発展に寄与した。
第1章 市民革命とは何か：その定義と意義
革命がもたらした「新しい時代」の幕開け
市民革命という言葉を聞くと、壮大な物語の始まりを思い浮かべるかもしれない。それはまさに、人々が自身の運命を自分たちの手で掴み取ろうと立ち上がった瞬間のことである。市民革命は、古い封建制度が崩れ、自由と平等を求める新しい時代の基盤が築かれた大きな転換点であった。中世ヨーロッパでは、王と貴族が絶対的な権力を握り、多くの人々は農奴や庶民として支配を受け入れるほかなかった。しかし、産業と商業が発展するにつれ、商人や職人などの市民階層が力を持ち始めた。彼らは王や貴族に従うだけの存在ではなく、自分たちの声を政治に反映させるべきだと考えたのである。
古い制度の崩壊：封建社会からの脱却
封建制度とは、土地を基盤とした支配構造であり、王が貴族に土地を与え、貴族が農民を支配する仕組みであった。この体制のもと、農民は自らの意志で動くことを許されず、支配層が経済と政治を完全に牛耳っていた。しかし、14世紀から15世紀にかけてのヨーロッパでは、ペストや百年戦争といった出来事が人口や労働力を大きく変え、封建制度が徐々に揺らぎ始めた。さらに、都市が発展し、商業が活気づいたことで、都市部の市民層が経済的な力を持つようになった。この新しい力を得た人々が、自分たちの権利を主張し始めたのが市民革命の出発点である。
革命を導いた変化の風：ルネサンスと啓蒙思想
市民革命は突然起きたものではない。その背後には、ルネサンスや啓蒙思想といった思想的な変化があった。ルネサンスは「人間の可能性」を発見し、個々の力を信じる新しい考え方を生み出した。そして17世紀から18世紀にかけての啓蒙思想は、自由、平等、合理性を重視する価値観を広めた。思想家たち、例えばジョン・ロックは、人間には生まれながらにして平等な権利があると主張した。この考え方が多くの市民に勇気を与え、「変化を起こせる」という信念を広めたのである。革命は思想と経済的現実の相互作用によって引き起こされたのである。
近代社会の扉を開いた市民革命の意義
市民革命は歴史の転換点であり、ただの出来事ではなく、現代社会の枠組みそのものを形成した重要な動きであった。この革命の成果として、専制政治の終焉、基本的人権の確立、議会政治の発展が挙げられる。例えば、フランス革命では「人間と市民の権利の宣言」が採択され、人々に平等と自由の概念を示した。こうした変革は、一国だけでなく世界中に波及し、政治的にも社会的にも新しい時代の基盤となった。市民革命は、私たちが今日享受している民主主義や法の支配の基盤を築き上げたのである。
第2章 イギリス革命：議会主義の始まり
議会と王権の対立：嵐の前のイギリス
17世紀初頭のイギリスでは、王と議会の間で激しい対立が進行していた。絶対王政を信じるスチュアート朝のジェームズ1世とその息子チャールズ1世は、「王権神授説」に基づいて絶対的な権力を行使しようとした。一方で、議会は古くから課税や法律の承認権を主張しており、王の専制的な姿勢に反発した。特にチャールズ1世が議会を無視して増税を強行したことは大きな怒りを買い、1628年には「権利の請願」が議会で提出された。この請願は、王の権力を制限し、国民の自由を守るものとして画期的だったが、チャールズ1世はこれを無視し、議会を解散。ここに議会と王権の対立は決定的となった。
清教徒革命とクロムウェルの登場
1642年、議会派と王党派の間で内戦が勃発した。この戦争は「清教徒革命」とも呼ばれ、宗教的な要素が色濃く反映されていた。議会派には、ピューリタン（清教徒）と呼ばれる人々が多く、彼らはカトリック的な教義を重視する王室の政策に反発していた。議会派の軍事的指導者として頭角を現したのがオリバー・クロムウェルである。彼は鉄の規律を持つ「鉄騎隊」を組織し、王党派を打ち破った。1649年、議会派はチャールズ1世を処刑し、イギリスは一時的に王政を廃止し、共和政（コモンウェルス）に移行した。これは、ヨーロッパ史において初めて君主が処刑されるという衝撃的な出来事であった。
名誉革命と平和的な変革
王政復古後も混乱は続いたが、1688年に「名誉革命」が起きた。この革命は、血を流すことなく政権を移行させた点で特筆すべきである。議会は、専制政治を復活させようとしたジェームズ2世を追放し、オランダからウィリアム3世とメアリー2世を迎え入れた。彼らは「権利の章典」に署名し、イギリスが立憲君主制に移行することを承認した。この章典は、議会の権限を明確にし、君主の権力を制限する画期的な文書であった。名誉革命によって、イギリスは専制的な王政から議会主義へと完全に舵を切ったのである。
イギリス革命が生んだ近代の遺産
イギリス革命は単なる国内の政治的変化ではなく、後の近代社会に多大な影響を与えた。特に、議会主義や立憲主義といった原則は、世界中の民主主義国家の基盤となった。また、革命を通じて市民の権利と自由が重要視されるようになり、産業革命や啓蒙思想の広がりに繋がる道筋を作った。この革命は、国家が市民によって統治されるべきだという考えを広め、他国の市民革命にも影響を与えた。イギリス革命の成果は、現代の私たちが享受している民主的な社会の基本形を築き上げたのである。
第3章 フランス革命：自由・平等・博愛の時代
不満の渦巻くフランス：革命の火種
18世紀末のフランスは、財政危機と社会的不平等が爆発寸前であった。国王ルイ16世と王妃マリー・アントワネットが浪費を続ける一方で、第三身分と呼ばれる農民や平民は重税に苦しんでいた。さらに、啓蒙思想家たち、ヴォルテールやルソーの言葉が広まり、「自由」と「平等」を求める気運が高まっていた。社会は三つの身分に分かれていたが、国民の大半を占める第三身分にはほとんど政治的な権利がなく、特権階級である貴族と聖職者が国を牛耳っていた。この深刻な不均衡に耐えかねた第三身分の人々が、革命の火を灯すこととなる。
バスティーユ襲撃：自由を求める人々の行動
1789年7月14日、パリの人々は歴史を変える行動に出た。長年、圧政の象徴とされてきたバスティーユ牢獄を襲撃し、武器と火薬を奪ったのである。この出来事は、民衆が初めて直接行動により権力に挑んだ瞬間だった。農民や都市労働者たちは、飢えや絶望に押されながらも、自らの未来を切り開こうと団結した。この襲撃は、革命の象徴的な始まりとして記憶されている。また、地方でも農民たちが蜂起し、貴族の屋敷が襲撃される「大恐怖」が広がった。こうして、民衆の行動は全国的な革命へと発展していったのである。
人間と市民の権利の宣言：革命の精神の具現化
フランス革命の最も輝かしい成果の一つが、1789年に採択された「人間と市民の権利の宣言」である。この文書は、「人は生まれながらにして自由で平等である」という理念を宣言し、封建制度や特権階級の支配を否定した。また、自由な発言や信教の権利、財産の保護が保障された。これらの思想は、ジョン・ロックやルソーといった啓蒙思想家の影響を受けている。さらに、この宣言はフランスだけでなく、世界中に広がり、近代的な人権概念の基盤となった。フランス革命が掲げた「自由・平等・博愛」というスローガンは、以降の歴史を大きく動かす原動力となる。
恐怖政治と革命の代償
しかし、革命は理想を実現するための道程において、恐ろしい側面も見せた。1793年、フランスは「恐怖政治」の時代に突入した。革命政府はロベスピエールの指導のもと、反革命の疑いがある人々を大量に処刑した。ギロチンは毎日動き、多くの人々が罪の有無に関わらず命を奪われた。この時代は、革命が抱える矛盾や難しさを浮き彫りにした。しかし、この混乱を経てフランスは、専制的な支配を打破し、新しい社会制度への第一歩を踏み出した。フランス革命は、理想と現実がぶつかり合う中で、歴史に大きな教訓を残したのである。
第4章 アメリカ独立革命：新大陸の夜明け
新大陸の苦悩：植民地時代の不満
18世紀半ば、イギリスの植民地だったアメリカ13州は、自由を渇望しながらも本国からの抑圧に苦しんでいた。フレンチ・インディアン戦争（1754–1763）の後、イギリスは戦費を回収するため「印紙法」や「茶法」などの課税を強化。これに対して、植民地の人々は「代表なくして課税なし」というスローガンを掲げ、イギリス議会に対する不満を高めた。さらに、1770年のボストン虐殺や1773年のボストン茶会事件などの出来事が、イギリスとの亀裂を深める契機となった。自由を求める植民地住民の思いが次第に高まり、革命の準備が整えられていった。
独立宣言：アメリカの誕生
1776年7月4日、アメリカ独立革命の最大の象徴ともいえる「独立宣言」が採択された。トマス・ジェファーソンが中心となって起草したこの宣言は、人間が生まれながらに持つ権利や自由を訴える画期的な文書であった。「すべての人間は平等に創られている」との理念は、啓蒙思想家ジョン・ロックの影響を受けたものだった。この宣言により、13の植民地はイギリスからの独立を正式に表明し、新たな国家「アメリカ合衆国」が誕生したのである。しかし、その背後には戦争による大きな犠牲も待ち受けていた。独立宣言は希望の光を放つ一方、植民地の人々を団結させる試金石でもあった。
独立戦争：困難の中で勝利をつかむ
独立宣言後、アメリカ独立戦争は激しさを増した。ジョージ・ワシントン率いる大陸軍は、厳しい寒さや食料不足と戦いながら、イギリス軍という圧倒的な軍事力に立ち向かった。特に1777年のサラトガの戦いは重要な転機となり、アメリカ側の勝利がフランスをはじめとするヨーロッパ諸国の支援を呼び込んだ。この国際的な支援が、独立戦争の勝利に大きく貢献した。そして、1781年のヨークタウンの戦いでイギリス軍を降伏させ、アメリカはついに独立を達成したのである。この戦争は、団結と希望が強大な権力に打ち勝つことを証明した。
合衆国憲法：新しい国家の基盤
1787年、独立後のアメリカは新しい国家の土台を築くため、フィラデルフィアで合衆国憲法を制定した。この憲法は、権力を三権に分立し、民主主義と法の支配を保証する内容であった。ジョージ・ワシントンやジェームズ・マディソンをはじめとする建国の父たちは、これまでの君主制から脱却し、市民が主体となる政治制度を確立しようとしたのである。特に、「人民による人民のための政府」という理念は、その後の世界の民主主義運動に多大な影響を与えた。合衆国憲法の採択により、アメリカは独立国家としての姿を完成させ、歴史に新たな1ページを刻んだのである。
第5章 市民革命を支えた思想家たち
革命の土台を築いた啓蒙思想家たち
市民革命の背後には、啓蒙思想家たちの革新的なアイデアが存在していた。ジョン・ロックは、社会契約論を提唱し、人間が生まれながらにして平等な権利を持つことを強調した。また、ルソーは「社会契約論」で、国家は市民の合意によって成立するべきだと述べ、人々に自らの運命を握る意識を与えた。モンテスキューは、権力の分立を説くことで、専制的な支配を防ぐ方法論を示した。これらの思想は、それまでの「神から与えられた王権」という考えを覆し、自由で平等な社会の可能性を示したのである。思想家たちの言葉は、革命の指導者や市民に勇気を与え、行動を起こす原動力となった。
ジョン・ロック：自然権と社会契約
ジョン・ロックは、市民革命の哲学的基盤を築いた重要な人物である。彼の主張の中心は「自然権」であり、人間には生命、自由、財産を守る権利があるとした。また、政府の役割は市民の権利を保護することであり、その義務を果たせない政府は正当性を失うとした。彼の著作『市民政府二論』は、アメリカ独立革命やフランス革命に大きな影響を与えた。ロックの思想は、封建制度や専制政治を批判し、市民が政治の主体となるべきだという考えを広めたのである。彼の自然権と社会契約の理論は、後の民主主義の基礎となり、市民革命を理論的に支えた。
ルソーの社会契約論と「一般意志」
ジャン＝ジャック・ルソーは、「社会契約論」で市民革命の精神をさらに発展させた。彼は、自由とは他人の支配から解放されるだけでなく、共同体の中で「一般意志」に基づく生活を送ることだと主張した。一般意志とは、社会全体の幸福を目指す共通の意思を意味する。この考え方は、フランス革命で特に重要視され、「人間と市民の権利の宣言」にも反映された。ルソーはまた、個人の自由と平等の調和を追求し、専制的な支配ではなく、共同体の合意による政治が必要だと説いた。その思想は、多くの革命家に影響を与え、理想の社会像を描く助けとなった。
権力の分立を説いたモンテスキュー
フランスの思想家モンテスキューは、権力の分立という斬新なアイデアを提案した人物である。著作『法の精神』では、立法、行政、司法の三権分立が政治の安定と自由の保障に不可欠だと主張した。彼の思想は、フランス革命だけでなく、アメリカ合衆国憲法にも取り入れられた。モンテスキューは、権力が一箇所に集中することを防ぐことで、専制政治の危険性を取り除こうとしたのである。この理論は、現代の民主主義における重要な原則となり、自由な社会を維持するための指針を提供した。思想の力が社会を変える原動力であることを証明したのである。
第6章 市民革命の経済的要因：資本主義の台頭
資本主義の目覚めと新しい社会の構築
市民革命の背後には、資本主義経済の成長という重要な要因があった。中世ヨーロッパの封建制は土地を基盤とした経済構造であり、農民は領主の支配を受けていた。しかし、商業革命を通じて都市が発展し、商人や職人といった市民階層が台頭した。これらの人々は、土地ではなく市場や貨幣を基盤とする経済活動を通じて力を持ち始めた。金融システムや貿易ネットワークが拡大し、封建制度に依存しない経済の仕組みが形成されていった。これにより、市民は政治的にも経済的にも自立し、古い制度に疑問を投げかけるようになった。
商業革命がもたらした変化
15世紀から17世紀にかけての商業革命は、市民革命への大きなきっかけとなった。ヨーロッパ諸国は、新航路の開拓を通じてアジアや新大陸との貿易を拡大し、経済は急速にグローバル化していった。特に、香辛料、銀、金といった貴重品が大量に流入したことは、貨幣経済を加速させた。これにより、商人や金融業者の力が強まり、経済の中心が地方の封建領主から都市へと移動した。この変化は、経済的な独立を背景に、市民層が政治的な権利を求める声を高める土壌を生み出したのである。
産業革命の序曲：手工業から機械化へ
市民革命の時代には、産業革命の前兆とも言える経済の変化が起きていた。工場制手工業（マニュファクチュア）の発展は、従来のギルド制に代わる新しい生産形態を生み出した。特にイギリスでは、羊毛産業が急成長し、資本家が労働者を雇用して大規模な生産を行うようになった。この新しい経済システムでは、資本を持つ者が力を持ち、労働者との関係が大きく変化した。この経済構造の変化が、市民層による政治的な主張を支える背景となり、社会全体の力学を変えていった。
経済と政治の交錯：市民革命の結果
市民革命は、経済と政治の関係を根本的に変える出来事でもあった。イギリス革命では、議会を支える多くの市民が商業や産業を基盤としており、政治における市民の力が初めて顕在化した。フランス革命では、ブルジョワジーと呼ばれる富裕な市民層が旧制度に取って代わる存在となった。こうした革命の結果、自由市場経済と民主主義が結びつき、現代の資本主義社会の基盤が形成されたのである。経済的独立を追求した市民たちは、政治的自由をも勝ち取り、世界の歴史を塗り替えた。
第7章 市民革命の軍事的側面：戦争と革命の相互作用
革命と戦争の交錯点
市民革命の歴史には、戦争が密接に関わっていた。例えば、アメリカ独立革命はイギリス本国との激しい戦争によって独立を勝ち取った。戦争は単に武力衝突だけでなく、革命を支える強力な手段でもあった。フランス革命では、フランス国内の変革だけでなく、隣国との戦争が革命を維持する試練となった。武装した民衆や志願兵たちは、国境を越えて「自由と平等」の理念を広める役割を果たした。戦争は単なる結果ではなく、市民革命を強化し、その目標を達成するための道筋を形作ったのである。
アメリカ独立戦争：小国の逆転劇
アメリカ独立革命は、圧倒的な軍事力を持つイギリスに対する小規模な植民地の挑戦であった。ジョージ・ワシントン率いる大陸軍は、武器も兵士も不足する中で、巧妙な戦略を駆使してイギリス軍に対抗した。特に1777年のサラトガの戦いは重要な転機となり、フランスをはじめとするヨーロッパ諸国がアメリカ側に加担するきっかけとなった。国際的な支援は、アメリカ独立革命を成功に導く鍵となった。戦争を通じて、アメリカ市民は自らの自由と独立を守るために戦う団結の力を学んだのである。
フランス革命戦争：理想を武器に
フランス革命が国境を越えて影響を及ぼした背景には、フランス革命戦争があった。1792年に始まるこれらの戦争は、ヨーロッパの旧勢力が革命政府を打倒しようとする動きに対抗する形で勃発した。革命政府は、民衆を徴兵し、世界初の国民皆兵制度を採用した。これにより、フランスは大量の兵士を動員し、戦争を通じて革命の理念を広げた。ヴァルミーの戦いでは、フランス軍がプロイセン軍に勝利し、革命政府の正当性を守ることに成功した。戦争はフランスの政治体制を安定させると同時に、革命の波を他国に波及させる契機となった。
軍事革命と市民の役割
市民革命は戦争を経て、新たな軍事的パラダイムを形成した。従来の戦争では、軍事は王や貴族の特権とされていたが、市民革命後には民衆が国家防衛の主体となる形が一般化した。フランス革命による国民皆兵制はその象徴であり、平等の理念が戦争の方法そのものを変えた。また、市民の士気や動員力が重要視され、兵士は単なる戦力ではなく、国家と理念を体現する存在となった。これにより、戦争は単なる領土争いから、自由や平等といった価値観をめぐる闘争へと変化したのである。
第8章 女性と市民革命：忘れられた声
革命の影で輝いた女性たち
市民革命は男性が主導したと思われがちだが、実際には多くの女性たちが重要な役割を果たした。フランス革命では、パリの市場で働く女性たちがバスティーユ襲撃を支え、ヴェルサイユ行進では王に食料の提供を求めた。彼女たちは「母としての役割」だけでなく、「市民としての責任」を果たそうと行動したのである。また、オランプ・ド・グージュは「女性と市民の権利宣言」を発表し、女性も男性と同じく政治的権利を享受すべきだと主張した。彼女の訴えは革命の中で埋もれたが、後のフェミニズム運動に道を開いた。
女性の知的貢献：啓蒙思想と文学
女性は革命において知的貢献も果たした。マリー・ウルストンクラフトは『女性の権利の擁護』を執筆し、女性が教育を受ける権利や政治に参加する権利を主張した。彼女の論説はイギリスだけでなく、フランスやアメリカの思想家にも影響を与えた。さらに、サロンと呼ばれる社交場では、知識人たちが政治や哲学について議論を交わし、その場を取り仕切ったのは多くの場合女性たちだった。これらの知的活動は、女性がただの傍観者ではなく、革命の思想を共有し、広める存在であったことを証明している。
革命の中の女性の葛藤と限界
女性たちが革命に貢献したにもかかわらず、彼女たちの権利は制限されたままだった。フランス革命では、「人間と市民の権利の宣言」が採択されたものの、そこに女性の権利は含まれなかった。ナポレオンが制定したナポレオン法典は、むしろ女性の地位を従属的なものに戻した。アメリカ独立革命でも、「すべての人間は平等である」という言葉は女性を含まなかった。女性たちは革命の成果を享受することを求め続けたが、社会はその声に応えるのに時間を要した。
革命が残した女性運動への道筋
市民革命は、女性運動の礎を築いたという点でも意義深い。オランプ・ド・グージュやマリー・ウルストンクラフトの思想は、後のフェミニズム運動に受け継がれ、19世紀の女性参政権運動の基盤となった。また、女性たちが革命の中で直面した困難は、「平等とは何か」を問う重要な議論を引き起こした。革命は一瞬で女性の権利を確立することはできなかったが、社会の不平等を明らかにし、それを変えようとする新しい流れを作り出したのである。女性たちの革命は、まだ終わっていない長い戦いの始まりだった。
第9章 市民革命の失敗と教訓
理想と現実のギャップ：革命後の混乱
市民革命は自由と平等を掲げて始まったが、実現には多くの困難が伴った。フランス革命後、国は度重なる政変と混乱に見舞われた。特に、ロベスピエールの恐怖政治は、革命の理想を維持しつつも多くの命を犠牲にした。さらに、ナポレオン・ボナパルトが権力を掌握し、皇帝として独裁体制を築いたことで、革命の理想は後退した。一方で、混乱の中でも平等な税制の確立や封建制度の廃止など、社会構造の変革は着実に進んだ。これらは、理想の追求と現実との間に存在するギャップを象徴している。
革命が抱えた社会的対立
革命の過程で、自由と平等を求める勢力と、それに反対する保守的な勢力との間で激しい対立が生じた。例えば、フランス革命では、富裕なブルジョワジーが政治を主導する一方で、都市労働者や農民は十分な恩恵を受けられなかった。この不平等は、革命が一部の階層に利益を集中させたとの批判を生んだ。アメリカ独立革命でも、奴隷制度の存続が議論を巻き起こした。自由の理想が社会全体に行き渡るには、経済的、文化的な障壁を克服する必要があったのである。
革命が残した教訓
市民革命は、人々が権利を勝ち取るための試みであり、その過程で多くの犠牲が伴った。イギリス、フランス、アメリカの革命はいずれも、理想を掲げながらも、完全な成功には至らなかった。しかし、これらの革命が示したのは、専制政治や封建的な社会構造に対抗する重要性である。また、革命を通じて得られた教訓は、民主主義を育むためには継続的な努力と改革が必要だということである。この学びは、後の社会運動や独立運動にも大きな影響を与えた。
混乱の中で得た前進の意味
革命の失敗から得られた進歩も少なくなかった。例えば、フランス革命では「人間と市民の権利の宣言」が採択され、基本的人権の概念が広まった。また、ナポレオン時代に制定されたナポレオン法典は、法の下の平等を規定し、近代法の基礎を築いた。アメリカ革命では、合衆国憲法によって政治制度の安定が図られた。これらの進展は、混乱や失敗を経てもなお、人々が自由と平等を追求する力を持ち続けたことを示している。市民革命の成果は、現代社会に至るまでその影響を残しているのである。
第10章 市民革命の遺産：近代社会への道
民主主義の礎を築いた市民革命
市民革命は、民主主義の基本的な枠組みを形作った。イギリス革命が議会主義を確立し、アメリカ独立革命が国民主権を示し、フランス革命が基本的人権の概念を広めたことは、現代社会の土台となった。これらの革命を通じて、市民が政治に参加する権利や責任を持つべきだという思想が広まったのである。また、選挙制度や三権分立など、今日の民主主義国家で当たり前とされる仕組みが形作られた。これらは単なる理想ではなく、歴史を通じて確立された人類の財産である。
法の支配と基本的人権の進展
市民革命は法の支配と基本的人権の普及を加速させた。フランス革命で採択された「人間と市民の権利の宣言」は、「自由」「平等」「財産保護」といった権利を明文化し、近代法の出発点となった。ナポレオン法典もその影響を受け、ヨーロッパ全域で法の下の平等を推進した。一方、アメリカ独立革命では合衆国憲法が制定され、人権と法の枠組みを具体化した。これらの革新は、社会の不平等を是正し、個人の尊厳を保障する基盤を築いたのである。市民革命がもたらしたこの成果は、今日のグローバル社会にも影響を与えている。
経済と自由市場の新しい視点
市民革命は、経済の分野にも革新的な変化をもたらした。資本主義が台頭し、自由市場が活発化したことで、市民が経済的自由を得る機会が拡大した。イギリスでは産業革命が後押しとなり、フランスでは封建制度の廃止が市場経済の発展を促した。アメリカでは、土地と資源の自由な取引が、独立後の国家建設に大きく貢献した。これらの変化は、経済的な独立が政治的自由を支える基盤となることを証明した。今日のグローバルな経済システムの起源は、これらの革命にさかのぼることができる。
革命が灯した平等への挑戦
市民革命が掲げた「平等」という理念は、現代社会における課題として今も生きている。女性やマイノリティの権利運動は、革命の精神を受け継ぎ、新たな変革を求め続けている。フランス革命の「自由・平等・博愛」のスローガンは、社会のあらゆる不平等と闘う指針となった。さらに、アメリカ独立革命で始まった人種平等の議論は、南北戦争や公民権運動を通じて進展した。市民革命は、平等の実現が容易ではないことを示しつつも、その理念が普遍的な目標であることを歴史に刻んだのである。