機動戦士ガンダム

基礎知識
  1. 機動戦士ガンダム』の誕生とその革新性
    機動戦士ガンダム』は1979年に放送を開始し、リアルロボットアニメという新たなジャンルを確立した作品である。
  2. 宇宙世紀(Universal Century)という架空の歴史設定
    機動戦士ガンダム』の世界観は「宇宙世紀」という架空の歴史に基づき、地球宇宙移民との対立を描いた独自のSF社会を構築している。
  3. モビルスーツ(MS)の概念とその軍事的リアリズム
    作の戦闘兵器「モビルスーツ」は従来の巨大ロボットとは異なり、現実的な軍事工学の発展を踏まえた設定がなされている。
  4. 富野由悠季と制作チームのビジョン
    監督・富野由悠季を中とする制作チームは、戦争を単なるエンターテインメントではなく、人間ドラマとして描くことを目指した。
  5. ガンダムシリーズの展開とその文化的影響
    機動戦士ガンダム』は映画、OVA、漫画、小説、ゲームなど多様なメディアへと広がり、日内外に影響を与えた巨大なフランチャイズへと発展した。

第1章 『機動戦士ガンダム』の誕生と革新性

1979年、衝撃の幕開け

1979年47日、日テレビアニメ史において革命が起きた。『機動戦士ガンダム』が放送を開始し、それまでのロボットアニメの常識を覆したのである。当時、ロボットアニメといえば、『マジンガーZ』や『ゲッターロボ』のように勧のストーリーが主流だった。しかし、『ガンダム』は違った。戦争の悲惨さ、リアルな軍事描写、そして善悪確に分かれないドラマが展開された。初回視聴率こそ低迷したものの、物語が進むにつれ熱狂的なファンが増えていった。この作品が「リアルロボットアニメ」という新たなジャンルを確立した瞬間であった。

旧来のロボットアニメとの決別

それまでのロボットアニメでは、主人公が強大な敵を打ち倒し、毎回スカッとした勝利を収めるのが王道だった。巨大ロボットはスーパーヒーローのような存在であり、敵は単なる役として描かれた。しかし、『ガンダム』ではロボット(モビルスーツ)があくまで戦争の兵器であり、戦争の勝敗は単純な力関係だけで決まるものではないという現実的な視点が取り入れられた。ザクに苦戦するガンダム、補給や戦略が戦局を左右する展開、そして兵士としての理描写。こうした要素が視聴者に「当にありそうな戦争物語」としてのリアリティをもたらした。

富野由悠季と挑戦の物語

作の総監督を務めた富野由悠季は、当初から「子ども向けの単純なロボットアニメにはしたくない」と考えていた。彼は『宇宙戦艦ヤマト』の成功を目の当たりにし、アニメも深みのあるドラマを描くべきだと確信していた。しかし、スポンサーは「子ども向け玩具が売れる番組」を求めていたため、企画当初は難航した。それでも富野は粘り強く交渉し、「ミリタリー要素を取り入れたロボットアニメ」として制作を進めた。結果として、放送当初は視聴率に苦しんだが、後に映画版が公開されると、一気に社会現となった。

革命はガンプラと共に

機動戦士ガンダム』が真の成功を収めるきっかけとなったのが、バンダイから発売されたプラモデル、通称「ガンプラ」であった。アニ編ではロボットが兵器として扱われることにより、リアルなメカデザインが強調された。その影響でガンプラも「自由に組み立てられる精密な戦闘兵器」として人気を博した。放送終了後もガンプラの売れ行きは止まらず、シリーズは継続的に支持を受けることとなる。単なるアニメ作品ではなく、視聴者が自らの手でガンダムの世界を創造できるコンテンツとなったことが、作の革新性を決定づけたのである。

第2章 宇宙世紀という歴史設定

人類、宇宙へ進出す

西暦2045年、地球の人口は増加の一途をたどり、資源の枯渇や環境破壊が深刻化していた。この問題を解決するため、人類は宇宙へと目を向けた。スペースコロニー構想は現実の宇宙開発にも影響を与えた技術者ジェラルド・K・オニールの「宇宙移民計画」から着想を得ている。宇宙世紀0001年、人類は格的な宇宙移民時代へ突入し、やラグランジュポイントに巨大なスペースコロニーを建設することで、新たな居住地を獲得した。しかし、それは理想の楽園ではなく、新たな対立の火種となったのである。

ジオン公国の独立戦争

地球連邦政府は宇宙移民者(スペースノイド)を管理する巨大な権力機関として君臨した。しかし、スペースノイドは次第に不満を募らせ、コロニーの自治を求める動きが活発化していった。その中にいたのが、サイド3(最遠のコロニー群)を統治するジオン・ズム・ダイクンであった。彼は「人類の革新」を説き、ニュータイプという概念を提唱するが、志半ばで急逝。その後、ジオン公は軍事政権となり、ついに宇宙世紀0079年、一年戦争が勃発する。人口の半が失われるほどの壊滅的な戦争は、人類史上最大の悲劇を生み出した。

ミノフスキー粒子が変えた戦争の形

宇宙世紀の戦争を特徴づけたのが「ミノフスキー粒子」の存在である。これはジオン公科学者トレノフ・Y・ミノフスキーが発見した特殊な粒子であり、これによりレーダーや遠距離通信が機能しなくなった。結果として、戦闘は近接戦闘が主体となり、大型戦艦よりも機動力の高いモビルスーツが主戦力となった。従来のSFに登場する戦艦宇宙戦争とは異なり、兵士同士の戦闘がリアルに描かれることとなる。この設定が『機動戦士ガンダム』を単なるアニメの枠を超えた硬派な戦記物に仕立てた要因である。

宇宙世紀がもたらしたリアリティ

機動戦士ガンダム』が他のSF作品と一線を画したのは、リアルな政治・経済・社会の動きを描いた点にある。宇宙移民の過酷な労働環境、地球連邦政府の腐敗、独立戦争の裏に潜む軍産複合体の影響など、現実の歴史を反映した要素が多く盛り込まれている。これにより、視聴者は「ガンダムの世界は、もし宇宙移民が現実に起こったら?」という視点で物語を捉えることができた。架空の歴史が現実と密接に結びつくことで、ガンダム世界観は単なるフィクションではなく、一つの可能性として受け止められるようになったのである。

第3章 モビルスーツという戦争兵器の革新

巨大ロボットから戦場の兵器へ

機動戦士ガンダム』以前のロボットアニメでは、巨大ロボットはヒーローそのものだった。しかし、ガンダムの世界ではロボットは「モビルスーツ(MS)」と呼ばれ、戦場での兵器として描かれた。この発想の原点は第二次世界大戦戦車戦闘機にあり、リアリティを追求するために軍事技術の発展が考慮された。ザクIIやジムのように量産され、パイロットが訓練を受けて操縦するという設定は、視聴者に「もし戦争でロボットが導入されたら?」という現実感を与えたのである。

ミノフスキー粒子と白兵戦時代の到来

宇宙世紀の戦争を変えたのが「ミノフスキー粒子」の存在である。これにより、従来の戦争の主役であった長距離ミサイルやレーダー誘導兵器は無効化された。戦場は一気に近距離戦闘が主体となり、戦闘機戦艦よりも小回りの利くモビルスーツが主力兵器となった。この設定は、過去の騎士の戦いや戦車戦の進化と類似しており、戦争の歴史に根ざしたリアルな軍事戦略をアニメの世界に取り入れたものだった。結果として、宇宙空間や地上戦においても戦術の多様性が生まれた。

モビルスーツ開発競争とそのリアリティ

一年戦争では、ジオン公が先にモビルスーツを開発し、戦場を席巻した。これに対し、地球連邦軍はMS開発計画「V作戦」によりRX-78-2 ガンダムを誕生させた。これは、現実の戦争における兵器開発競争と同じ構造を持ち、例えば第二次世界大戦中のドイツ戦車とソ連のT-34戦車の関係に通じるものがあった。モビルスーツが戦場の主役となることで、兵器開発の重要性や、各軍の戦略の違いがリアルに描かれたことが、作のリアリティを高める要因となった。

兵士としてのモビルスーツパイロット

『ガンダム』では、モビルスーツのパイロットは単なるヒーローではなく、兵士として描かれた。アムロ・レイやシャア・アズナブルも例外ではなく、戦場における苦悩や、戦争による精神的な負担が詳細に描かれた。これは、パイロット=戦士であり、ロボット=戦闘兵器という認識を定着させた重要な要素である。戦争とは単なる勝敗ではなく、そこに生きる兵士たちの苦悩や葛藤が伴うものなのだ。モビルスーツの戦闘が単なるアクションではなく、重厚な人間ドラマを生み出す要素となったことも、作の革新性の一つである。

第4章 富野由悠季と『ガンダム』の思想

反戦のメッセージとリアルな戦争描写

機動戦士ガンダム』は単なるロボットアニメではなく、戦争の悲惨さを描いた物語である。監督の富野由悠季は「戦争化せず、リアルに描く」ことを強く意識し、戦闘シーンにおいてもが常に隣り合わせであることを強調した。特に一年戦争では、兵士たちのが次々と描かれ、単なる敵ではなく、それぞれに背景を持つ人間として命を奪われていく。この冷徹なリアリズムが、多くの視聴者に「戦争とは何か」を考えさせる契機となったのである。

ニュータイプという革新的な概念

富野由悠季が『ガンダム』で提唱した重要なテーマの一つが「ニュータイプ」である。ニュータイプとは、宇宙に適応した新たな人類の可能性を示す存在であり、従来の力による支配ではなく、相互理解による平和の実現を象徴している。しかし、作中ではニュータイプが戦争の道具として利用される場面も多く、富野の皮肉が込められている。アムロ・レイやララァ・スンのようなニュータイプたちは、戦争を超えた理解を求めるが、その願いは届かず、悲劇的な結末を迎える。この点が『ガンダム』を単純なヒーロー物語にしない大きな要素となっている。

富野由悠季が目指したアニメの新時代

機動戦士ガンダム』は、従来の子供向けアニメとは一線を画す作品であった。富野はアニメを「娯楽でありながら、視聴者に深い思索を促すもの」にしたいと考えており、単なるロボットアクションではなく、政治哲学戦争の矛盾を描くことを重視した。その結果、当初は子供向けとしては難解すぎると判断され、視聴率は伸び悩んだ。しかし、やがて再評価が進み、大人のファンを中カルト的な人気を博し、アニメの枠を超えた社会現へと発展したのである。

絶望と希望の狭間で

富野由悠季の作品には、常に「絶望希望」が共存している。『ガンダム』でも、戦争が繰り返される絶望的な状況の中で、それでも人々は未来を模索し続ける。シャア・アズナブルのように復讐と理想の間で揺れ動くキャラクターは、単なる役ではなく、人間の葛藤を体現している。富野の描く物語には、単純なハッピーエンドは存在しない。しかし、だからこそ、その中にあるわずかな希望が強く印に残るのである。この「現実的な希望の描き方」こそが、ガンダムが今なお支持される大きな理由の一つである。

第5章 『ガンダム』のファン文化と社会的影響

静かなスタート、熱狂的なブームへ

1979年に放送された『機動戦士ガンダム』は、当初視聴率に苦しんだが、放送終了後に劇的な変化を遂げた。ファンの間で「リアルな戦争描写」や「重厚なストーリー」が再評価され、再放送を機に人気が爆発したのである。特に劇場版三部作の公開は、新たなファン層を呼び込み、ガンダムが単なるアニメを超えた社会現へと成長する契機となった。テレビ放送では評価されなかった作品が、ファンの熱意によって復活するという、日アニメ史でも類を見ない展開がガンダムブームの原動力となったのである。

ガンプラが生んだ新たな遊び文化

『ガンダム』の人気を不動のものにしたのは、1980年にバンダイが発売した「ガンプラ(ガンダムのプラモデル)」である。それまでのロボット玩具は完成品が主流だったが、ガンプラは自分で組み立て、を塗り、カスタマイズできる点が画期的だった。ジオンのザクが売れ行きトップになるという現も起こり、「敵側の兵器に魅力を感じる」という新たな消費文化を生み出した。さらに、バンダイはファンの期待に応える形で多様なMSを商品化し、ガンプラは単なるホビーを超えた一大ブームへと発展したのである。

同人文化とファンの創造力

『ガンダム』は、アニメファンの間で同人活動を活発化させた作品でもある。1980年代には、ファンが独自の解釈を加えた同人誌や、オリジナルの外伝ストーリーが次々と発表された。特に「もしもこのキャラクターが生きていたら?」や「別の戦場では何が起こっていたか?」といった創作は、公式作品にも影響を与えた。ファンの想像力が新たなガンダム作品を生み出す土壌となり、現在も続くスピンオフ作品の誕生に大きな役割を果たしたのである。

ガンダムがアニメ業界に与えた影響

『ガンダム』の成功は、アニメ業界全体に変革をもたらした。それまでの「子ども向け」ロボットアニメに代わり、シリアスなストーリーや戦争のリアリズムを取り入れた作品が増加した。さらに、OVA(オリジナル・ビデオ・アニメ)や、より複雑な人間ドラマを描くアニメが台頭し、ガンダムはその先駆けとなった。また、グッズ展開の成功は、後のアニメビジネスモデルの基礎を築き、日アニメ産業が世界市場へ進出する足掛かりとなったのである。

第6章 映画版と続編によるシリーズ展開

劇場版三部作がもたらした再評価

1981年から1982年にかけて、『機動戦士ガンダム』の劇場版三部作が公開された。テレビ放送時には低視聴率だった作は、劇場版によって改めて評価され、大きな社会現を引き起こした。特に、劇場版ではテレビ版の冗長なエピソードを整理し、戦争のリアルな側面やキャラクターの情描写がさらに強調された。アムロとシャアの対決、ジオンの崩壊、ニュータイプの覚醒というテーマは、劇場という大スクリーンで観ることでより鮮烈な印を残し、多くの新規ファンを獲得することに成功した。

『Zガンダム』が築いた新たな時代

劇場版の成功を受け、1985年に『機動戦士Ζ(ゼータ)ガンダム』が制作された。作は、一年戦争終結から7年後の世界を描き、地球連邦軍内の独裁勢力「ティターンズ」と、反抗組織「エゥーゴ」の戦いが描かれた。主人公のカミーユ・ビダンは、アムロとは異なる激情型のキャラクターであり、物語はより複雑な政治劇を伴うものとなった。Ζガンダムデザインや、モビルスーツ戦の進化も高く評価され、続編としての成功だけでなく、「大人向けアニメ」としてのガンダムシリーズの方向性を確立した。

『ZZガンダム』と続編の模索

1986年に放送された『機動戦士ΖΖ(ダブルゼータ)ガンダム』は、それまでの重厚なストーリーとは異なり、コミカルな要素を強調した作品となった。主人公ジュドー・アーシタは、カミーユとは対照的にるく前向きな少年であり、戦争の悲惨さだけでなく、希望を描こうとする試みがなされた。しかし、Ζガンダムからの急激なトーンの変化は賛否を呼び、一部のファンからは違和感を持たれた。それでも後半では再びシリアスな展開へと戻り、ガンダムシリーズの多様性を示す重要な作品となった。

劇場版の進化と宇宙世紀の拡張

1988年には、宇宙世紀の物語をさらに深める映画機動戦士ガンダム 逆襲のシャア』が公開された。シャア・アズナブルが再び表舞台に登場し、アムロとの最終決戦が描かれた作は、ファンにとって待望のストーリーであった。『逆襲のシャア』では、ニュータイプの思想が最高潮に達し、地球宇宙未来が二人の戦いに託された。麗な作画と壮大な音楽が相まって、ガンダム映画の頂点と評され、ガンダムシリーズの映画化の成功例として、後の作品に影響を与えることとなった。

第7章 ガンダム作品の多様化とオルタナティブ宇宙

宇宙世紀からの脱却

1994年、それまで宇宙世紀の時間軸に沿って展開されていたガンダムシリーズは、新たな挑戦に踏み出した。『機動武闘伝Gガンダム』は、それまでの戦争を主体としたリアルロボットの路線を離れ、各代表のモビルスーツが戦う「ガンダムファイト」を描いた異作であった。主人公ドモン・カッシュとゴッドガンダムのバトルアクションは、スーパーロボットアニメのテイストを濃く残し、シリーズの幅を広げることに成功した。これにより、ガンダムは単なる戦争物語ではなく、自由な世界観を描ける作品へと進化したのである。

『新機動戦記ガンダムW』が開いた新たなファン層

1995年に放送された『新機動戦記ガンダムW』は、宇宙世紀の戦争観とは異なり、5人の少年兵がモビルスーツを駆り、地球圏統一を目指す物語が描かれた。ヒイロ・ユイ、デュオ・マックスウェルといった個性的なキャラクターは、これまでの戦争を背負う大人の兵士とは違い、感情を抑えながらも理想を貫く姿が特徴的であった。麗なキャラクターデザイン理的な葛藤の描写が人気を呼び、女性ファンの獲得にも大きく貢献した。これにより、ガンダムは新たな視聴者層を拡大することに成功したのである。

『機動戦士ガンダムSEED』が巻き起こした新たなブーム

2002年、『機動戦士ガンダムSEED』が放送されると、再び社会現となるほどの人気を博した。作は『機動戦士ガンダム』のテーマを受け継ぎながらも、21世紀の視聴者に向けて新たに再構築された物語を展開した。主人公キラ・ヤマトとアスラン・ザラの対立、コーディネイターとナチュラルの遺伝子格差問題といったテーマが深く掘り下げられ、ドラマ性が強調された。さらに、ガンプラ市場も再び活気を取り戻し、新世代のファンを獲得することに成功した。

オルタナティブガンダムの可能性

『ガンダム』は、もはや一つの世界観に縛られない多様な物語を生み出すシリーズへと成長した。『機動戦士ガンダム00』では、現実の政治を反映した設定が取り入れられ、『機動戦士ガンダム 血のオルフェンズ』では、少年兵の生きる過酷な世界が描かれた。これらの作品は、宇宙世紀の重厚な物語とは異なるが、それぞれの時代に即したガンダムのあり方を示したのである。こうしてガンダム進化を続け、新たな世代に向けて「ガンダムとは何か?」という問いを投げかけ続けるのである。

第8章 ガンダムのメディアミックスと経済的成功

OVAという新たな舞台

1989年、『機動戦士ガンダム0080 ポケットの中の戦争』がOVA(オリジナル・ビデオ・アニメ)として発売された。これは、テレビ放送ではなく、ビデオ市場向けに制作されたガンダム作品であり、新たな視聴者層を開拓することに成功した。作は戦争悲劇を少年の視点から描いた異作であり、宇宙世紀作品のスピンオフとして高い評価を得た。以降、『0083』や『第08MS小隊』といったOVAシリーズが次々と登場し、テレビアニメでは描けない戦場のリアルなドラマがガンダムの魅力をさらに深めたのである。

ゲーム市場への進出

ガンダムアニメだけでなく、ゲームの世界でも成功を収めた。1995年に発売された『機動戦士ガンダム ギレンの野望』は、プレイヤーがジオン公地球連邦の指導者となり、戦略を練るシミュレーションゲームとして大ヒットした。また、アーケードゲーム機動戦士ガンダム 戦場の絆』では、プレイヤーがモビルスーツのパイロットとして操縦する体験型のゲームが実現した。これにより、ガンダムは視聴するだけのコンテンツから、プレイヤーが「戦争の当事者」として没入できるメディアへと進化したのである。

漫画と小説による物語の拡張

アニメやゲームだけでなく、ガンダム漫画や小説の世界でも発展を続けた。特に、富野由悠季が執筆した『機動戦士ガンダムのハサウェイ』は、劇場版とは異なる壮大なストーリーが展開され、原作小説としての地位を確立した。また、『機動戦士クロスボーン・ガンダム』は、海賊をテーマにしたスピンオフ作品として漫画市場で根強い人気を誇る。これらの作品は、映像作品では語られなかった物語を補完し、ガンダム世界観をより奥深いものにしている。

ガンダムビジネスの拡大

ガンダムは単なるアニメシリーズではなく、巨大なビジネスへと成長した。特にガンプラ市場は世界規模で展開され、2020年代には年間販売が2000万個を超えるほどの人気を誇る。また、実物大ガンダムの建造や、テーマパークでの展示など、現実世界でも「ガンダム体験」が可能となった。さらに、NFTデジタルコンテンツといった新たなビジネスモデルにも進出し、時代に応じて進化し続けるブランドとなっている。ガンダムは、アニメの枠を超えた一大文化となったのである。

第9章 国際的な影響とガンダムのグローバル展開

北米市場への挑戦

1990年代後半、日アニメの人気が海外で高まり始めると、ガンダムもその波に乗る形で北市場へ進出した。2000年、カートゥーンネットワークで『新機動戦記ガンダムW』が放送され、スタイリッシュなキャラクターと政治ドラマが多くの視聴者を引きつけた。その後、『機動戦士ガンダム』や『機動戦士ガンダムSEED』も放映され、北アニメ市場にガンダム存在が定着した。しかし、リアルな戦争描写が多いため、一部の作品は放送規制により編集されることもあった。こうした困難を乗り越え、ガンダムは欧市場にもファン層を築いたのである。

アジア市場に根付いたガンダム文化

アジア地域では、日アニメの影響が強く、ガンダムも早い段階で人気を得た。特に中香港台湾韓国では、1980年代からガンダムシリーズが放送され、独自のファンダムが形成された。香港では劇場版三部作が熱狂的に受け入れられ、ガンプラの販売も急拡大した。中では、経済成長とともにアニメ市場が拡大し、ガンダム関連商品が大きなビジネスとなった。特に実物大のフリーダムガンダム像が上海に建設されたことは、アジア市場におけるガンダム象徴的な出来事となった。

ヨーロッパと南米での評価

ガンダムは、ヨーロッパや南の一部地域でも根強い人気を誇る。フランスイタリアでは、日アニメ全般の人気が高く、ガンダムシリーズも1980年代からテレビ放送されてきた。特に『機動戦士ガンダム00』や『血のオルフェンズ』は、ストーリーの社会性が評価され、一定のファン層を獲得している。一方、南では『ガンダムW』や『SEED』が人気を博し、ロボットアニメの象徴として受け入れられている。ごとに異なる反応を見せながらも、ガンダムは世界中でその存在感を確立しつつある。

世界展開するガンプラとイベント

ガンダムシリーズの際的成功を支えているのが、ガンプラの世界展開である。バンダイは海外市場向けに販売戦略を強化し、北アジアの大型ホビーショップには専用コーナーが設けられるようになった。さらに、ガンプラ世界大会「GBWC(ガンプラビルダーズワールドカップ)」を開催し、世界各のファンが独自の作品を競い合う場を提供している。近年ではデジタルコンテンツの展開も進み、ガンダムアニメだけでなく、文化アイコンとして世界的に影響を与える存在となっている。

第10章 未来のガンダム:その可能性と進化

新技術が変えるアニメーション

ガンダムシリーズは、常に技術革新とともに進化してきた。近年では、CG技術の向上により、より滑らかなモビルスーツの動きが実現している。『機動戦士ガンダムNT』では、3Dアニメーションを駆使した迫力のある戦闘シーンが話題となった。また、AIを活用した作画補助技術が導入され、アニメ制作の新たな可能性が広がりつつある。今後は、VRやAR技術を活用した「体験型ガンダム」や、完全なCGアニメ作品の登場も期待され、視聴者はこれまでにない没入感を得ることができるだろう。

実物大ガンダムと次なる展開

近年、実物大ガンダムの建造が相次いでいる。お台場の「RX-78-2 ガンダム」、横浜の「動くガンダム」、上海の「フリーダムガンダム」といったプロジェクトは、ガンダムを現実の世界へと引き寄せた。これらのプロジェクトは、ファンにとっての実現であり、ガンダムが単なるアニメではなく文化シンボルであることを証した。今後は、AI搭載のガンダムや、実際に戦闘シミュレーションが可能なロボット開発が進む可能性もあり、「リアル・ガンダム」の時代が近づいている。

新たなストーリーの可能性

ガンダムシリーズは、時代ごとに新たな物語を生み出してきた。『機動戦士ガンダム 水星魔女』は、女性主人公や学園ドラマという新しいアプローチを取り入れ、若い世代に受け入れられた。今後は、さらに多様な視点から描かれるガンダム作品が登場する可能性が高い。例えば、地球外生命体との接触、ポスト・ニュータイプ社会、AIと人間の戦争など、未来テクノロジーや倫理をテーマにした作品も考えられる。ガンダムは、時代とともに進化し続けるコンテンツである。

ガンダムが示す未来の戦争と平和

ガンダムシリーズは、単なるロボットアニメではなく、「戦争とは何か?」を問い続けてきた。未来のガンダム作品も、戦争と平和の関係を掘り下げながら、人類の未来を描くことになるだろう。現実世界では、AI兵器や無人戦闘機の開発が進んでおり、ガンダムの描く戦争観はますますリアルになりつつある。もしニュータイプのような人類の進化が実現すれば、戦争は変化するのか、それとも終わるのか。ガンダムは、未来戦争と平和について考えるための鏡として、これからも人類とともに歩み続けるのである。