開発学

第1章: 開発学の誕生 – 歴史的背景と意義

戦後の新たな世界秩序

第二次世界大戦が終わると、世界は新たな秩序を模索し始めた。ヨーロッパや日本は破壊からの復興を果たす一方、アジア、アフリカ、ラテンアメリカの国々は、植民地支配から解放され、自らの未来を切り開く時代を迎えた。これらの新興国は独立を達成したものの、経済的、社会的な問題に直面していた。1940年代後半から1950年代にかけて、国際的な開発援助が拡大し、その中で「開発学」が誕生した。この新しい学問は、途上国が貧困から脱却し、持続可能な成長を遂げるための道筋を研究するものであった。国際機関や研究者たちが集まり、新たな世界秩序の中で開発問題にどう対処するかを議論し始めたのだ。

マーシャル・プランと開発のアイデア

世界が戦後復興に向かう中で、アメリカはヨーロッパに「マーシャル・プラン」を提供し、巨額の資を投じて経済復興を支援した。この成功例は、発展途上国にも応用できるのではないかと考えられた。経済的な援助だけでなく、技術移転や教育支援も行われ、途上国の経済を発展させるためのモデルが生まれた。しかし、これがすべての国に適用できるわけではなかった。開発学者たちは、国ごとに異なる歴史的、文化的背景を理解し、それに基づいた開発政策が必要であると主張した。マーシャル・プランはヨーロッパで成功したが、開発学はさらに広範な視点で、多様なアプローチを探求する必要があったのである。

冷戦と開発競争

冷戦時代、アメリカとソビエト連邦は、自国の影響力を世界に広げようと競い合った。この競争は、発展途上国に対する開発援助にも影響を与えた。アメリカは自由市場経済を推進し、ソビエトは社会主義モデルを輸出しようとした。アジアやアフリカ、ラテンアメリカの新興国は、どちらのモデルを採用すべきかの選択を迫られ、両大国からの援助を受ける中で自らの発展を模索した。開発学は、これらの国々が冷戦政治的圧力にさらされながらも、独自の道を見つけるための知識を提供した。この時期は、開発学の理論と実践が急速に進化し、国際的な議論が活発化した重要な時代である。

人間中心の開発への移行

1960年代から1970年代にかけて、開発学は次第に経済成長だけでなく、人間中心の開発へとシフトしていった。これまでの開発援助は、インフラ整備や工業化など、経済的な成長を目指すものが多かったが、次第に教育、保健、生活準など、人々の生活の質を向上させることが重要であると認識されるようになった。国際的な開発会議では、単なる経済成長ではなく、持続可能な人間開発が議論の中心となった。こうして、開発学は経済と人間の両方を重視する学問へと成長し、今もなお世界中で重要な役割を果たしている。

第2章: 近代化理論 vs. 依存理論 – 開発をめぐる主要理論の対立

近代化理論の輝かしいビジョン

1950年代、冷戦の只中で、アメリカの社会学者たちは発展途上国が先進国と同じ道を歩めば豊かになれると信じていた。この理論は「近代化理論」として知られ、ウォルト・ロストウの『経済成長の段階』が代表的な作品である。彼は、どの国も成長の5段階を経て発展すると唱え、伝統的社会から始まり、最終的には「高度消費社会」に至るとした。この理論は楽観的で、途上国も適切な指導を受ければ先進国に追いつくことができるという希望を与えた。しかし、現実は理想通りに進まなかった。途上国の多くはこの過程に進むどころか、貧困の罠に陥り、理論が抱える課題が次第に明らかになっていくこととなる。

依存理論の挑戦

1960年代に入ると、南を中心に、近代化理論に対する批判が強まった。依存理論の提唱者たちは、先進国の繁栄が途上国の犠牲の上に成り立っていると主張した。アルゼンチン出身の経済学者ラウル・プレビッシュは、発展途上国が原材料を輸出し、先進国が加工製品を輸出する構造が続く限り、途上国は経済的に発展できないと指摘した。彼らは、途上国が先進国に依存している限り、真の発展は望めないと強調し、新しい経済構造の必要性を訴えた。この理論はラテンアメリカの多くの国々で受け入れられ、世界中で大きな議論を巻き起こすこととなった。

対立する二つのビジョン

近代化理論と依存理論は、開発の道筋をめぐって正反対の見解を示していた。近代化理論が「すべての国が同じ発展プロセスをたどる」と信じるのに対し、依存理論は「途上国はそのままでは発展できない」と警鐘を鳴らした。前者は西洋的な価値観を前提にしており、途上国にその価値観を押し付けることを正当化していた。しかし、依存理論は、経済的搾取の歴史や先進国と途上国の力の不均衡を強調し、開発とは単なる模倣ではなく、独自の道を模索すべきであるとした。この対立は、開発学における理論的な分岐点を形成した。

理論から実践へ – 現実の挑戦

どちらの理論が正しいのかという議論は、現実の世界で試されることとなった。1960年代から70年代にかけて、途上国はこれらの理論に基づいて政策を展開したが、成功と失敗は混在していた。アフリカやアジアの多くの国々では、近代化理論に基づいたインフラ整備や工業化が進められたが、その過程で格差や貧困が拡大することもあった。一方で、ラテンアメリカでは依存理論に基づき、経済自立を目指す政策が実施されたが、これも期待通りの結果を得られなかった。こうして、開発の道筋は単純な理論では語り尽くせない複雑さを持つことが明らかとなっていった。

第3章: 発展途上国の経済成長と人間開発 – 経済だけではない発展の測定

経済成長の物語

20世紀中盤、多くの国々が経済成長を開発の主要な目標として掲げていた。国内総生産(GDP)が上昇すれば、その国は発展しているとみなされたのである。中国やインドのような国々では、工業化と都市化が急速に進行し、成長の勢いが増した。しかし、この単純な数字だけが発展のすべてを物語るわけではなかった。経済成長が著しくても、貧富の差が広がり、人々の生活の質が改善されないことも多かった。発展とは単なる数値ではなく、国民一人一人の幸福に直結するものでなければならない。経済成長だけを目指す政策は、やがて限界に直面することとなった。

人間開発指数(HDI)の登場

1990年、国際連合開発計画(UNDP)は「人間開発指数(HDI)」を発表した。この新たな指標は、経済成長だけでなく、教育、健康、生活準を含めた総合的な発展を測定するものであった。マハブーブ・ウル・ハクというパキスタン出身の経済学者とインドのノーベル賞受賞者アマルティア・センがこの概念を提唱し、発展の概念を拡張した。HDIは、例えばノルウェーが世界一の生活準を誇ることや、アフリカの国々が貧困に苦しんでいることをより具体的に示した。この指数は、経済成長とともに、人間の基本的ニーズがどの程度満たされているかを理解するための重要なツールとなった。

生活の質とは何か

生活の質とは何を意味するのだろうか。経済学者たちはそれを測定しようと多くの指標を提案してきたが、単純にお物質的な豊かさだけではなく、教育、健康、社会的つながりが重要であることが分かってきた。例えば、南アジアの国々では、経済成長が進んでも、教育準が低く、女性の地位向上が遅れていたため、社会全体の生活の質は向上しなかった。一方、北欧諸国では、福祉国家としての政策が人々の健康や教育に投資し、国民全体が豊かさを享受できるようにすることに成功していた。発展とは、単に「豊かさ」を追い求めるだけでなく、「生きる価値」を追求することである。

幸福度と発展の新たな視点

発展を考える上で、経済成長だけではなく、人々の幸福度に注目する動きも強まっている。ブータンは「国民総幸福量(GNH)」という指標を導入し、経済の成功だけではなく、精神的・社会的な幸福を追求する政策を進めている。この概念は他の国々にも影響を与え、発展を「どれだけの人が幸せを感じているか」という視点で捉えるようになった。国連も「世界幸福報告書」を発表し、幸福度を発展の一つの指標として取り入れている。こうした動きは、単なる経済成長ではなく、持続可能で、人間中心の発展を求める現代の開発学進化象徴している。

第4章: グローバリゼーションの光と影 – 世界化する経済と開発への影響

経済の国境を越える波

1990年代、インターネットと情報技術の発展により、世界はかつてないほどつながりを強めた。この現は「グローバリゼーション」と呼ばれ、経済、文化、社会のあらゆる側面に影響を与えた。特に経済分野では、資本、商品、サービスが国境を越えて自由に行き交うようになり、多国籍企業が急速に成長した。これにより、かつては分断されていた市場が一体化し、先進国と途上国の間で新たな貿易の流れが生まれた。しかし、この急激な変化は、途上国にとっては新たな機会とともに、厳しい競争の波ももたらした。グローバリゼーションの進展がすべての国に同じ恩恵を与えたわけではなかったのだ。

途上国の挑戦と機会

途上国は、グローバリゼーションによって多くの恩恵を受ける一方で、厳しい課題にも直面した。例えば、インドや中国は、製造業の成長を背景に急速な経済発展を遂げた。これにより数百万人が貧困から脱出し、中産階級が誕生した。一方、アフリカやラテンアメリカの一部の国々では、国際市場の競争に打ち勝てず、経済の発展が停滞することが多かった。グローバリゼーションは、新しい市場へのアクセスや技術の移転を促進する一方で、国内産業の衰退や不平等の拡大といった副作用も生んだ。成功する国と失敗する国、その違いは政策や歴史的背景に大きく影響された。

不平等の広がり

グローバリゼーションがもたらした最大の課題の一つが、不平等の拡大である。先進国では、経済のグローバル化に伴い高賃知識労働者が恩恵を受ける一方で、低賃の労働者は職を失い、所得格差が拡大した。同様に、途上国でも都市と農村の間で経済的な不平等が深刻化し、多くの人々が都市部へと移住する結果を招いた。例えば、中国の経済成長は、沿岸部の都市に集中し、内陸部の農村地帯では依然として貧困が蔓延していた。グローバリゼーションは、全ての人に平等な機会を提供するものではなく、むしろ既存の格差を広げる要因となることもある。

グローバルな連帯とローカルの価値

グローバリゼーションの中で重要になったのは、国際的な協力とローカルな価値の両立である。気候変動、感染症の拡大、テロリズムなど、国境を超えた問題に対処するためには、国際社会の連帯が必要不可欠である。例えば、パリ協定は、気候変動に立ち向かうために世界各国が協力する枠組みを作った。一方で、グローバリゼーションの中で失われがちなローカルな文化や伝統も重要視されるようになっている。フェアトレード運動などは、国際市場においても地元の価値や持続可能な開発を守るための取り組みとして注目されている。グローバリゼーションの進展は、単なる経済の話にとどまらず、人間の価値や生き方にまで深く関わっているのである。

第5章: 持続可能な開発と未来への道筋 – 環境と経済の共存

持続可能な開発の誕生

20世紀末、世界はある危機に気づき始めた。それは、地球の限られた資源を無限に消費し続けることが不可能であるという現実であった。環境破壊、気候変動、そして資源の枯渇。これに対応するために、1987年、国連が発表した「我ら共有の未来」という報告書が「持続可能な開発」という考え方を広めた。この考え方は、現在の世代が未来の世代のニーズを犠牲にせずに発展を遂げることを目指している。経済成長と環境保護を両立させることが、人類の未来を守るための鍵であるとされた。これにより、持続可能な開発が21世紀の主要な目標として位置づけられた。

パリ協定と気候変動

持続可能な開発の具体的な取り組みの一つが、気候変動対策である。2015年に成立したパリ協定は、世界各国が協力して地球温暖化を食い止めるための国際的な枠組みである。この協定では、産業革命以前と比べて気温上昇を2度以下に抑えることが目標とされた。国々はそれぞれに目標を掲げ、再生可能エネルギーの普及や化石燃料の使用削減に取り組んでいる。太陽発電や風力発電など、クリーンエネルギーへのシフトは、多くの国で急速に進んでいる。しかし、これらの取り組みにはまだ多くの課題が残っており、グローバルな協力が不可欠である。

グリーン経済への移行

持続可能な開発を実現するためには、経済そのものが変わる必要がある。これが「グリーン経済」と呼ばれる新たな経済モデルである。グリーン経済は、環境への悪影響を最小限に抑えながら、経済成長を追求するものである。例えば、欧州連合(EU)は「欧州グリーンディール」を策定し、2050年までに温室効果ガスの排出を実質ゼロにすることを目指している。また、多くの企業が環境に配慮したビジネスモデルを採用し、持続可能な製品やサービスを提供することで、新しい市場を創り出している。グリーン経済は、環境問題と経済発展の両立を追求する未来の希望である。

SDGsと私たちの未来

持続可能な開発目標(SDGs)は、2015年に国連が定めた17の目標であり、2030年までに貧困をなくし、地球を守り、すべての人々が平等に繁栄する社会を目指している。これには、気候変動、エネルギー、教育ジェンダー平等など、幅広い分野が含まれている。SDGsは、国際社会の協力だけでなく、個々の行動にも焦点を当てている。高校生であっても、エネルギーの節約やリサイクルなど、日常生活の中でSDGsに貢献する方法がたくさんある。持続可能な開発の実現には、私たち一人一人の意識と行動が必要である。それこそが、より良い未来を築くための第一歩となるのである。

第6章: 国際機関と開発援助 – 世界の貧困削減への取り組み

世界銀行の使命と挑戦

世界銀行は1944年に設立され、戦後復興と途上国の開発支援を目的に活動を開始した。初期の頃は、インフラ整備に焦点を当て、ダムや道路の建設に多額の資を提供した。しかし、時代とともにその役割は変わり、現在では、貧困削減や社会的なプログラムに資を投じることが重要なミッションとなっている。たとえば、アフリカやアジアの農村部に教育や保健のインフラを整備するプロジェクトなどが行われている。しかし、批判も少なくなく、巨大なプロジェクトが環境破壊やコミュニティの崩壊を招いたという声も聞かれる。世界銀行はその使命を果たすため、常に挑戦を続けている。

国連の役割と開発目標

国際連合(国連)は、平和と安全の維持を主な目的として設立されたが、開発援助にも深く関与している。特に注目すべきは、国連が主導する持続可能な開発目標(SDGs)である。2015年に採択されたSDGsは、2030年までに極度の貧困を根絶し、持続可能な世界を実現するための17の目標を設定している。これには、質の高い教育の提供やジェンダー平等の達成、気候変動への対策などが含まれる。国連の開発プログラムは、多国間の協力を通じて、貧困層を支援し、持続可能な未来を築くために重要な役割を果たしている。

IMFと経済安定化

国際通貨基(IMF)は、世界経済の安定化を目的とする国際機関であり、特に経済危機に直面した国々への支援を行っている。IMFは、財政危機に陥った国々に対して、資を提供する代わりに、財政政策の改革を求めることが多い。例えば、1997年のアジア通貨危機の際には、タイや韓国などの国々に対して経済支援を行い、厳しい構造改革を求めた。この支援は、経済の安定を取り戻すのに貢献したが、一方で、IMFの条件が厳しすぎるとの批判もあり、社会的な混乱を招くこともあった。IMFの役割は、単なる資援助にとどまらず、国際的な経済政策に大きな影響を与えている。

NGOと草の根レベルの支援

国際機関と並んで、非政府組織(NGO)も開発援助の重要なプレイヤーとなっている。NGOは、草の根レベルでの支援活動を行い、貧困層への直接的な援助や、コミュニティの能力強化を目指している。例えば、「オックスファム」や「セーブ・ザ・チルドレン」などの組織は、世界中で貧困削減、教育支援、保健サービスの提供などを行っている。これらの活動は、政府や国際機関の大規模なプロジェクトでは届かない地域や人々に支援を届けることができる。NGOの活動は、国際開発の現場で欠かせない存在となっており、持続可能な発展に向けた鍵となっている。

第7章: 南南協力と新しいパートナーシップ – グローバルな視点からの協力の再構築

南南協力の台頭

冷戦が終結し、従来の東西冷戦構造が崩れた後、南南協力が新たな注目を集めた。南南協力とは、発展途上国同士が協力し合い、共に経済成長や社会発展を目指す枠組みである。伝統的な「北から南への支援」というモデルに対し、南南協力は対等なパートナーシップを前提としている。ブラジル、中国、インドなどの新興経済国がこの協力の中心に立ち、アフリカ諸国やアジアの他の国々と技術や資を共有する動きが活発化した。これにより、開発の主体が多極化し、グローバルなパワーバランスが変化し始めたのである。

新興国のリーダーシップ

南南協力の成功例として、インドアフリカのパートナーシップが挙げられる。インドは、アフリカの農業技術支援や医療インフラの構築に積極的に関わってきた。例えば、インドは安価なジェネリック医薬品をアフリカ諸国に供給し、HIV治療の普及に貢献している。また、中国も一帯一路構想を通じて、アフリカやアジアにインフラ投資を行い、新たな経済の連携を促進している。こうした新興国のリーダーシップは、南南協力が単なる援助ではなく、互恵的な成長を目指す新しい国際関係を築くための重要な要素となっている。

地域協力の力

地域協力も南南協力の重要な柱である。例えば、アフリカ連合(AU)は、アフリカの各国が協力して政治的・経済的課題に取り組むための枠組みである。アフリカ連合は、経済統合や貧困削減を目指し、域内貿易の促進やインフラ開発を進めている。また、ASEAN(東南アジア諸国連合)は、東南アジア平和と安定を守りつつ、域内での経済成長を推進している。こうした地域協力は、地域特有の課題に対処し、各国がより効果的に発展を遂げるための重要なメカニズムとなっている。

新たなパートナーシップの未来

南南協力と地域協力が発展する中で、新しいパートナーシップの形が次々に生まれている。新興国同士が互いに補完し合うことで、従来の国際協力モデルを超えた創造的な連携が進んでいる。これにより、発展途上国が先進国依存から脱却し、自らの力で成長を遂げる道が広がっている。未来の国際協力は、国家間の対等な関係を基盤に築かれ、グローバルな課題に対処するための多層的なネットワークが形成されるだろう。新たなパートナーシップは、世界をより公平で持続可能な方向へと導く可能性を秘めている。

第8章: ジェンダーと開発 – 女性のエンパワーメントと社会変革

女性のエンパワーメントの始まり

20世紀初頭、女性たちは自らの権利を求めて立ち上がり始めた。選挙権を求めたサフラジェット運動や、労働権を求めた運動は、女性の地位向上のための第一歩であった。これらの運動は先進国で始まったが、発展途上国でも徐々に女性のエンパワーメントが社会の重要な課題となった。例えば、インドでは1960年代から女性教育への投資が行われ、女性の識字率が向上し始めた。女性が教育を受けることで、家庭やコミュニティにおいて重要な役割を果たすようになり、経済的にも独立を目指すことができるようになった。教育は、女性のエンパワーメントの鍵となる要素である。

教育がもたらす社会変革

教育は、女性の人生を大きく変える力を持っている。バングラデシュでは、女性教育の普及が農村部の社会に劇的な変化をもたらした。教育を受けた女性たちは、結婚年齢を遅らせ、より少ない子供を持つことで、家庭の経済状況を改善している。また、女性たちは小規模ビジネスを始め、コミュニティの経済に貢献している。こうした教育を受けた女性が増えることで、地域全体が発展し、貧困からの脱却が可能になる。教育は単に知識を与えるだけでなく、女性たちの自信と自立を促進し、持続可能な社会を築くための重要な手段となっている。

女性の経済参画とその影響

女性の経済参画は、家族やコミュニティ、国全体にプラスの影響をもたらす。たとえば、アフリカではマイクロファイナンスの普及によって、女性たちが少額の融資を受けてビジネスを始める機会が増えている。この融資によって、女性たちは農業や手工業などの分野で成功を収め、家族を経済的に支えるだけでなく、コミュニティの発展にも貢献している。また、国際労働機関(ILO)の調査によると、女性の労働参加率が上昇すると、国家全体のGDPが向上する傾向がある。女性の経済参画は、国際的な開発目標の達成にも貢献する重要な要素である。

ジェンダー平等の未来

ジェンダー平等は、単に女性の権利向上だけを目指すものではなく、社会全体の利益につながる。世界経済フォーラムによると、ジェンダー格差が解消されることで、世界経済に数十兆円規模の利益がもたらされる可能性がある。国連の持続可能な開発目標(SDGs)でも、ジェンダー平等が重要な目標の一つとして位置付けられている。ジェンダー平等は、貧困削減、教育の向上、健康の改善など、さまざまな社会的な課題の解決につながる。未来の開発には、女性の権利と平等が不可欠な要素であり、これを実現することで、持続可能で公正な社会が築かれるのである。

第9章: 地域ごとの開発パターン – アジア、アフリカ、ラテンアメリカの事例比較

アジアの奇跡と経済成長の軌跡

20世紀後半、アジアは世界経済において驚異的な成長を遂げた地域として知られている。特に日本や韓国、シンガポール、台湾などの「アジアの奇跡」と呼ばれる国々は、短期間で経済発展を遂げ、先進国の仲間入りを果たした。この成功の背景には、輸出主導型経済、強力な政府のリーダーシップ、教育投資などがある。例えば、韓国は1960年代に工業化を進め、電子産業や自動車産業を育成した結果、経済大国へと成長した。しかし、その一方で、アジアの他の国々では格差が広がり、農村部の貧困問題が依然として解決されていないという課題も残っている。

アフリカの資源と開発のジレンマ

アフリカは豊富な天然資源に恵まれているが、その恩恵を十分に享受できていない地域でもある。ナイジェリアやアンゴラのような国々は、石油鉱物資源に依存して経済を成り立たせているが、資源の管理や分配の不平等が深刻な問題となっている。また、多くのアフリカ諸国では、内戦政治的な不安定さが経済成長を妨げている。しかし、近年ではガーナやケニアなど、安定した政府と成長する中産階級によって経済発展を遂げつつある国もあり、技術革新や農業改革が地域の未来を照らしている。アフリカの発展は、資源だけではなく、政治的安定と持続可能な成長戦略にかかっている。

ラテンアメリカの成長と挑戦

ラテンアメリカは、かつて急速な経済成長を遂げたが、現在は停滞に直面している地域である。ブラジルやメキシコなどの国々は、20世紀後半に工業化と都市化を進め、経済成長を実現したが、その後、インフレ、貧困、不平等といった問題に苦しんでいる。ブラジルでは、農業や鉱業の拡大に伴い経済成長が加速したが、都市部のスラム化や環境破壊が新たな課題として浮上している。ラテンアメリカの成長は、国際市場への依存や、国内の政治的安定の欠如によって脆弱になっており、持続的な成長には社会改革や教育の充実が不可欠である。

地域ごとの異なる課題と解決策

アジア、アフリカ、ラテンアメリカの開発は、それぞれ異なる歴史的、経済的背景に基づいて進展している。アジアでは教育や工業化による奇跡的な成長が見られるが、格差の問題は依然として残されている。アフリカでは豊富な資源を活用しつつ、政治的安定が成長の鍵を握っている。ラテンアメリカでは成長のピークを過ぎた今、経済改革や社会的安定が新たな挑戦となっている。これらの地域が直面する課題には共通点も多くあり、他の地域から学び合うことで、より持続可能で公平な未来を築くためのヒントが見つかるだろう。

第10章: 未来の開発学 – イノベーションと新しい課題

テクノロジーが切り開く未来

未来開発学において、テクノロジーの進化は避けて通れない要素である。特に、人工知能(AI)、ビッグデータ、ブロックチェーンなどの技術は、開発の形を劇的に変えつつある。例えば、AIは農業や医療分野での効率化を進め、途上国においてもこれらの技術を活用することで、限られたリソースを最大限に活用することが可能となる。また、ブロックチェーン技術を活用した国際的な支援の透明化も進んでおり、資の流れがより追跡可能になることで、開発プロジェクトの信頼性が高まるだろう。未来開発学は、これらのイノベーションを取り入れつつ、より効率的で公正な方法を模索している。

新しい開発のアプローチ

従来の開発学は、経済成長を中心に進められてきたが、21世紀には新しいアプローチが求められている。例えば、インクルーシブ開発は、社会のあらゆる層が経済発展の恩恵を享受できることを目指している。これには、女性やマイノリティ、障害を持つ人々など、従来の開発から取り残されがちだった層を取り込むことが重要である。こうした取り組みは、単に経済的な豊かさを追求するだけでなく、社会全体の持続可能な発展に寄与する。未来の開発は、従来の枠組みを超え、より包括的で公平な社会の実現を目指すのである。

気候変動との戦い

気候変動は、未来の開発において最も大きな課題の一つである。地球温暖化が進行する中で、海面上昇、異常気、干ばつなど、世界中で深刻な影響が現れている。開発学は、この気候危機にどう対処するかという新たな局面に立たされている。国連の持続可能な開発目標(SDGs)でも、気候変動への対応が重要な目標として掲げられており、再生可能エネルギーの普及や炭素排出量の削減が求められている。途上国においても、これらの取り組みが必要不可欠であり、気候変動に対応した新しい開発戦略が模索されている。

新たな課題にどう挑むか

未来開発学は、従来の枠組みを超えた新たな課題に直面している。パンデミックや移民問題、サイバーセキュリティなど、グローバル化が進む中で現れた課題が次々に浮上している。例えば、新型コロナウイルスの世界的な流行は、健康だけでなく経済や教育にも深刻な影響を与えた。このような問題に対して、開発学は迅速かつ柔軟に対応する必要がある。未来の開発は、これまでにないスピードで進行する課題に対応するため、創造性と革新性が求められる時代に突入しているのである。