基礎知識
- ヘヴィメタルの起源
1960年代末から1970年代初頭にかけて、ブルースロックとサイケデリックロックを基に発展し、Black SabbathやLed Zeppelinがジャンルの礎を築いた。 - サブジャンルの多様性
ヘヴィメタルには、スラッシュメタル、デスメタル、ブラックメタル、パワーメタルなど、幅広いサブジャンルがあり、それぞれが独自のサウンドと美学を持つ。 - 音楽的特徴
ヘヴィメタルは、歪んだギター、重厚なリズム、パワフルなヴォーカル、そして技巧的なソロ演奏を特徴とする。 - 文化的・社会的影響
ヘヴィメタルは、しばしば反権威的で反体制的なメッセージを含み、若者文化やサブカルチャーに大きな影響を与えてきた。 - ヘヴィメタルとファッション
ヘヴィメタルのファッションスタイルは、レザージャケット、鋲、バンドTシャツ、そしてロングヘアなどで象徴され、音楽と密接に結びついている。
第1章 ヘヴィメタルの起源: サバスから始まる物語
革命の始まり: 1960年代の音楽シーン
1960年代の終わり、世界は音楽の激動期を迎えていた。ロックンロール、ブルース、サイケデリックロックが流行し、若者たちは新しい音楽に熱狂していた。この時期、イギリスの工業都市バーミンガムで一つのバンドが誕生する。彼らの名はBlack Sabbath。ギタリストのトニー・アイオミが奏でる重く不協和なギターリフと、オジー・オズボーンの独特な声が結びつき、これまでにない暗く、重厚なサウンドが生まれた。彼らの音楽は、戦争や社会の不安、悪夢的なビジョンを歌詞に取り込み、これが「ヘヴィメタル」という新しいジャンルの幕開けとなった。
Black Sabbathの衝撃と革命
Black Sabbathのデビューアルバム『Black Sabbath』(1970年)は、音楽業界に衝撃を与えた。そのタイトル曲は、重々しいギターのリフが雷のように響き、恐怖感を抱かせる斬新な音作りが特徴であった。サバスの音楽は、ブルースロックやサイケデリックロックの影響を受けながらも、他のバンドとは異なるダークで神秘的な雰囲気を持っていた。オジーの歌声は悪夢の語り手のようであり、トニー・アイオミのギターワークは独自の激しい音色を生み出していた。このアルバムをきっかけに、ヘヴィメタルの基礎が築かれ、音楽の歴史が変わっていく。
英国から世界へ: 音楽の進化と広がり
1970年代、Black Sabbathに続く形で、Led ZeppelinやDeep Purpleといったバンドも登場し、ヘヴィメタルの音楽は進化を続けた。彼らの音楽は、よりテクニカルでダイナミックな方向へと発展し、ギタリストやドラマーの技巧を見せる場面が増えていく。これにより、ヘヴィメタルはただの「音の重さ」だけでなく、緻密な構成や劇的な展開を持つジャンルへと成長した。また、英国だけでなく、アメリカや他の国々でもメタルの影響が広まり、世界的なムーブメントへと発展していく。
ヘヴィメタル誕生の裏にある影響
Black Sabbathのサウンドは、社会的背景とも強く結びついていた。第二次世界大戦後の産業都市での厳しい生活や、核戦争への恐怖が彼らの音楽に暗いトーンを与えていた。トニー・アイオミは、工場での事故で指を失い、それが彼の独特なギタースタイルを生み出すきっかけとなった。彼のリフは、重く、低く、金属的な響きを持ち、ヘヴィメタルの象徴的なサウンドを作り上げた。こうして、ヘヴィメタルは社会の不安や個人の苦悩を反映する音楽として、若者たちの心を掴むこととなる。
第2章 轟音と進化: 70年代のメタル拡大
Judas Priestと「ヘヴィメタル」命名の瞬間
1970年代中頃、Judas Priestというバンドが登場し、ヘヴィメタルの音楽スタイルに重要な転換をもたらした。彼らは、ブルースの要素を減らし、より速く鋭いギターワークを取り入れたことで、メタルのサウンドを劇的に進化させた。特にリーダーであるロブ・ハルフォードの高音シャウトは新しい魅力を加え、バンドはヘヴィメタルの象徴的存在となる。Judas Priestのアルバム『Sad Wings of Destiny』(1976年)はその影響を強く示し、音楽ジャーナリストたちはついにこの新しいサウンドに「ヘヴィメタル」という名前を与えるようになった。
Deep Purple: ハードロックとメタルの架け橋
同じく1970年代、Deep Purpleはハードロックとヘヴィメタルの橋渡しを行う重要な役割を果たした。彼らの代表作『Machine Head』(1972年)には、「Smoke on the Water」という、今でも広く知られるギターリフが含まれている。このリフはシンプルでありながら、ヘヴィなサウンドを持ち、メタルの精神を象徴している。ギタリストのリッチー・ブラックモアは、クラシック音楽の影響を取り入れつつ、ハードでエネルギッシュな演奏を披露し、次世代のメタルアーティストに多大な影響を与えた。
メタルサウンドの拡大: ギターソロの進化
1970年代後半になると、ヘヴィメタルのサウンドはさらに進化し、ギターソロが中心的な要素となった。バンドはギタリストの技術を競うようになり、特にヴァン・ヘイレンの登場が大きな変革をもたらした。エディ・ヴァン・ヘイレンは、タッピングという新しい奏法を駆使し、爆発的なギターソロを生み出した。彼のプレイスタイルは、メタルをより複雑でダイナミックなものにし、ギターがメタルサウンドの中核を占める存在として確立される。
ヘヴィメタルのアイコン: ファッションとイメージの確立
1970年代のヘヴィメタルは、音楽だけでなくファッションでも大きな進化を遂げた。Judas Priestは、レザーと鋲を取り入れたスタイルを確立し、ヘヴィメタルの象徴的なイメージを生み出した。バンドメンバーたちは、ステージ上での外見にもこだわりを持ち、ファンもそれを模倣するようになった。この時期、メタルファッションはサウンドと同様に反抗的で攻撃的なスタイルを象徴するものとなり、ヘヴィメタル文化全体を形成する重要な要素となった。
第3章 サブジャンルの誕生: スラッシュからブラックまで
スラッシュメタルの爆発的な登場
1980年代初頭、音楽シーンに突如として現れたスラッシュメタルは、メタルのスピードと攻撃性を新たな次元に押し上げた。代表的なバンドには、Metallica、Slayer、Megadeth、Anthraxがあり、彼らは「ビッグ4」として知られるようになる。スラッシュメタルは、従来のヘヴィメタルよりも速いテンポとアグレッシブなギターリフが特徴であり、リフの連打やドラムの猛烈なビートが聴く者を圧倒した。Metallicaの『Master of Puppets』(1986年)は、スラッシュメタルの中でも特に影響力のあるアルバムで、複雑な曲構成と社会的メッセージが融合した傑作である。
デスメタルの恐怖とカオス
スラッシュメタルからさらに過激な音楽スタイルを求めて誕生したのがデスメタルである。1980年代後半から1990年代初頭にかけて、フロリダを中心に発展したこのジャンルは、Cannibal CorpseやDeathといったバンドによって牽引された。デスメタルは、低音域でのグロウルと呼ばれる声、過激なリフ、そして死や暴力をテーマにした歌詞が特徴である。アルバム『Leprosy』(1988年)は、Deathによってリリースされ、デスメタルの礎を築いた。このジャンルは、その恐怖感やカオス的な要素で多くのリスナーに衝撃を与えた。
ブラックメタルの闇と神秘
ブラックメタルは、ノルウェーを中心に独自の進化を遂げたサブジャンルで、1980年代後半から1990年代初頭にかけて特に注目を集めた。MayhemやBurzumといったバンドが代表的であり、彼らは反キリスト教的なテーマや自然崇拝を歌詞に取り入れた。ブラックメタルは、冷たく不気味なギタートーン、霧のようなヴォーカル、そして薄暗い雰囲気が特徴である。特にノルウェーのブラックメタルシーンでは、教会放火事件や暴力事件など、音楽以外でも社会を揺るがす出来事が多く、世界的にブラックメタルの名が広がる一因となった。
パワーメタルのファンタジー世界
一方、デスメタルやブラックメタルの暗いテーマとは対照的に、パワーメタルは希望や冒険をテーマにした明るいサブジャンルとして発展した。ヨーロッパ、特にドイツのバンドであるHelloweenやBlind Guardianがこのジャンルの先駆者となる。パワーメタルは、スピード感あふれるギタープレイと高音域のヴォーカルが特徴で、ドラゴンや英雄、魔法といったファンタジー的な要素が歌詞に多く見られる。Helloweenの『Keeper of the Seven Keys』(1987年)は、このジャンルの代表作であり、リスナーをファンタジーの世界へと誘うエネルギッシュな音楽が詰まっている。
第4章 リフとリズム: メタルの音楽的特徴
ギターリフの力: 音楽の背骨
ヘヴィメタルの曲は、その中心に力強いギターリフを持っている。リフとは、繰り返されるメロディの断片で、曲全体の雰囲気や勢いを形作る。Black Sabbathの「Iron Man」やMetallicaの「Enter Sandman」など、象徴的なリフは一度聴けば忘れられない力を持つ。これらのリフは、通常、歪んだギターで演奏され、厚みのあるサウンドを作り出す。ヘヴィメタルのリフは、曲に重さとリズム感を与え、聴く者に強烈なインパクトを与える。それはまさにヘヴィメタルの魂であり、曲を一瞬で特徴づける要素である。
パワフルなヴォーカル: 歌声の多様性
ヘヴィメタルのヴォーカルスタイルは、バンドによって驚くほど多様である。Judas Priestのロブ・ハルフォードのように、強烈な高音でシャウトするスタイルから、デスメタルのグロウル(低く唸る声)まで、様々なアプローチが存在する。ヴォーカルはしばしば楽器と同じくらい重要な役割を果たし、曲の感情的な焦点となる。例えば、Iron Maidenのブルース・ディッキンソンの声は、ドラマチックなストーリーテリングを支える一方、Panteraのフィル・アンセルモの力強い叫びは、攻撃的なエネルギーを曲に注ぎ込んでいる。
リズムの核心: ドラムとベース
ドラムとベースは、ヘヴィメタルにおいてリズムの核心を担う。特に、速いテンポと重いビートはメタルの特徴であり、ドラマーはそれを支える重要な役割を果たしている。スラッシュメタルでは、ドラムのダブルバスドラム奏法がよく使われ、よりスピード感のあるサウンドを生み出す。ベーシストはその重低音で、曲全体に厚みと深みを与え、音楽に独特のダイナミズムを加える。例えば、Motörheadのレミー・キルミスターの荒々しいベースは、バンドのサウンドを形作る重要な要素であった。
ギターソロ: テクニックと感情の融合
ヘヴィメタルのギターソロは、テクニカルでありながら感情的な表現でもある。多くのメタル曲のクライマックスであり、ギタリストはスピード、精度、そして創造性を駆使して聴く者を魅了する。例えば、エディ・ヴァン・ヘイレンはタッピング奏法で知られ、驚異的な速さと独創性でメタルギターの新境地を切り開いた。ソロは曲のドラマ性を高め、感情のピークを作り出す瞬間でもある。技巧的なプレイと感情のバランスをとったギターソロは、ヘヴィメタルを特別な音楽ジャンルとして際立たせる重要な要素である。
第5章 メタルと反逆: 文化的な挑戦
反権威主義の象徴としてのメタル
ヘヴィメタルは、初期から反権威主義的なメッセージを発信してきた。特に1970年代と1980年代、メタルバンドは体制への不満や反抗を音楽に込めた。Black Sabbathは、戦争や社会の不安定さを歌詞に反映し、若者たちに共感を与えた。Judas PriestやIron Maidenも、個人の自由を求めるメッセージを強調し、ファンの間で「反体制」の象徴として支持を集めた。メタルは、権力に立ち向かう姿勢を表現し、多くの若者に自分の声を持つ重要性を教える存在となった。
メディアによる悪魔崇拝の誤解
1980年代には、メタルが悪魔崇拝と結びつけられることが多くなった。特にアメリカでは、メタルバンドがサタン崇拝を広めているという誤解が広がり、バンドの歌詞やアートワークが批判の対象となった。例えば、Slayerのようなバンドは、歌詞の中で宗教や死をテーマにすることがあり、これが不安を煽った。しかし、メタルの多くは実際には哲学的な問いかけや反体制的な表現の一部として扱われており、悪魔崇拝とは無関係である。この誤解は、メディアがメタル文化を単純化して報道した結果であった。
メタルと検閲: 自由の戦い
1980年代、特にアメリカでは、メタルバンドの歌詞がしばしば社会問題として取り上げられ、検閲の対象となった。PMRC(音楽リソースセンター)の提唱によって、多くのアルバムが「ペアレンタルアドバイザリー(保護者への警告)」ステッカーを貼られることとなった。Twisted Sisterのディー・スナイダーは、この検閲に反対し、議会で証言を行った。彼は、メタルは単なる娯楽であり、表現の自由の一部であると強く主張した。この出来事は、メタルが社会に挑戦する文化であり続けることを示す重要な瞬間であった。
若者文化へのメタルの影響
ヘヴィメタルは、単なる音楽以上の存在となり、若者文化に深く浸透した。メタルファンは、バンドの音楽だけでなく、そのライフスタイルやメッセージにも共感した。彼らは、メタルを通じて自分のアイデンティティを築き、自由や反抗の象徴として捉えた。メタルの影響は、ファッションや言葉遣い、さらには価値観にまで広がり、個性を強調する手段となった。メタルは、主流文化に適応しない若者にとって、自分らしく生きるための道しるべとして機能し続けている。
第6章 メタルファッション: 音楽とスタイルの融合
レザーと鋲: 反逆の象徴
ヘヴィメタルのファッションといえば、まず思い浮かぶのはレザーと鋲である。このスタイルを象徴的にしたのはJudas Priestだ。彼らは黒いレザージャケットやパンツ、無数の鋲を身にまとい、ステージに立った。この見た目は、攻撃的で力強く、音楽のエネルギーと完全に一致していた。ファッションとしてのレザーは、反権威的な態度や自由を表し、瞬く間にファンの間で流行した。メタルファッションは、ただの衣装ではなく、音楽の精神を体現する重要なアイコンとなった。
ロングヘア: メタルのアイデンティティ
メタルファッションにおいて、もう一つの象徴的な要素はロングヘアである。長髪は、メタルファンやアーティストにとって自由と反抗のシンボルであり、社会のルールに縛られない生き方を表している。特に1970年代から1980年代にかけて、ロングヘアはメタルシーンで欠かせない要素となった。コンサートでは、バンドとファンが共に頭を振り回す「ヘッドバンギング」が見られ、これはメタル特有の文化として定着した。ロングヘアは、音楽と一体化した自己表現の一つである。
バンドTシャツ: ファンの誇り
ヘヴィメタルファンの間では、バンドTシャツが特別な意味を持つ。メタリカやアイアン・メイデンなどのバンドロゴがデザインされたTシャツは、ファンにとってそのバンドへの愛と誇りを示すものだ。バンドTシャツは、単なる服装以上のものであり、ファン同士の連帯感やアイデンティティを表現する手段でもある。Tシャツには、アルバムアートやツアーの記念デザインが使われることが多く、ライブ会場やフェスティバルではファン同士がそれを見せ合うことで、共通の趣味を持つ仲間との一体感が生まれる。
ゴシックとメタル: 異なるスタイルの融合
ヘヴィメタルのファッションは、他のスタイルとも影響を与え合って進化してきた。特にゴシックファッションとの融合は、1980年代後半から1990年代にかけて顕著であった。黒を基調としたダークでエレガントなスタイルが、特にブラックメタルやドゥームメタルのシーンで広がりを見せた。黒のローブや化粧が特徴的なゴシックスタイルは、音楽の持つ神秘的で暗い雰囲気と合致し、バンドとファンの両方で採用された。メタルファッションは常に進化し続け、その多様性はシーンの豊かさを示している。
第7章 世界を揺るがすメタル: グローバルな拡大
アメリカでのメタルの進化
ヘヴィメタルはアメリカで大きな進化を遂げた。特に1980年代、ロサンゼルスの「サンセット・ストリップ」地区はメタルバンドのメッカとなり、Motley CrueやGuns N’ Rosesといったバンドが次々に登場した。彼らは、派手なファッションとエネルギッシュなパフォーマンスで、メタルシーンに新たな風を吹き込んだ。アメリカのメタルは、商業的な成功を収めるとともに、ロックやポップの要素を取り入れることで、より広範なオーディエンスにアピールするようになった。これにより、メタルは国境を越え、世界中のファンを魅了していく。
北欧メタル: 冷たい大地からのサウンド
1980年代後半から1990年代にかけて、北欧、特にノルウェーとスウェーデンはブラックメタルとデスメタルの中心地として世界的に知られるようになった。MayhemやDarkthroneといったノルウェーのバンドは、冷たい大地のように暗く、荒々しいサウンドを特徴とした。彼らは反宗教的なテーマや自然崇拝を取り入れ、ブラックメタルの独特な世界観を作り上げた。一方、スウェーデンはメロディックデスメタルの中心地となり、In FlamesやAt the Gatesなどがそのシーンをリードした。北欧メタルは、地元の文化や風景とも深く結びついていた。
日本のメタルシーンの独自性
日本でも、独自のメタルシーンが1980年代から発展していった。X JAPANは、その代表的なバンドとして知られ、彼らはビジュアル系と呼ばれる派手なメイクと衣装で、視覚的なインパクトを与えながらも、パワフルでエモーショナルな音楽を提供した。X JAPANは、日本のメタルシーンに強い影響を与え、その後、LUNA SEAやDir en greyといったバンドが続いた。また、日本のメタルフェスティバルは海外のバンドも多く参加するようになり、日本独自のメタル文化と国際的なメタルシーンが交わる場となった。
メタルのグローバル化: 世界中のシーンの広がり
メタルは、ヨーロッパやアメリカだけでなく、南米やアジア、アフリカなど、世界中で受け入れられ、各地域で独自のシーンが形成された。特に南米では、Sepulturaのようなバンドが国際的に成功し、ラテンアメリカのメタルファンを熱狂させた。アジアでも中国やインドネシアでのメタル人気が高まり、バンドが続々と誕生した。こうして、メタルは文化や言語の壁を越えて広がり、世界中のファンに愛される音楽ジャンルへと成長していった。
第8章 メタルの暗黒面: 論争と誤解
暴力との結びつき: メディアの偏見
ヘヴィメタルはしばしば暴力と結びつけられてきた。1980年代から1990年代にかけて、メタル音楽が社会問題として取り上げられ、特にアメリカでは、若者の暴力的行動の原因として非難された。メディアはメタルバンドの歌詞やアルバムカバーに過激な表現が含まれることを理由に、この音楽が悪影響を与えると主張した。しかし、多くのメタルファンやアーティストにとって、メタルはむしろ感情を解放し、現実逃避や心の安定を与えるものとして重要だった。暴力との結びつきは、メタル文化に対する深い誤解から生まれたものである。
悪魔崇拝の誤解: ショックと芸術
メタルは悪魔崇拝と関連づけられることも多い。特にブラックメタルやデスメタルのバンドは、暗いテーマや不気味なイメージを前面に出すことがあるため、これが誤解を生んだ。たとえば、スウェーデンのバンドBathoryやノルウェーのMayhemは、宗教的な象徴や神秘的な儀式をテーマにした歌詞やアートを使用したが、これはしばしばショックを与えるための芸術的表現であった。悪魔崇拝といった誤解は、メタルの背後にある複雑なメッセージや象徴を深く理解しないまま、表面的に解釈された結果である。
メディアとの戦い: メタル文化の擁護
1980年代後半、アメリカではPMRC(音楽リソースセンター)がヘヴィメタルの歌詞を問題視し、表現の自由を巡る大きな論争が起きた。Twisted Sisterのディー・スナイダーは、アメリカ議会の公聴会で堂々とメタルの擁護に立ち、音楽は聴く人の解釈に委ねられるべきであり、規制することは表現の自由を侵害するものだと訴えた。この事件は、メタルが単なる「反社会的な音楽」ではなく、創造的で表現力豊かなジャンルであることを広く認識させる契機となった。
誤解を超えて: メタルとそのコミュニティ
メタルは誤解されることが多いが、実際には多くの人々にとって強いコミュニティを形成する音楽である。メタルの世界では、ファン同士が強い絆で結ばれ、互いに支え合う文化が存在する。メタルフェスティバルやライブでは、異なる背景を持つ人々が集まり、一体感を感じながら音楽を楽しむことができる。メタルの歌詞やテーマが重く、時に暗いものであっても、それは現実の苦しみを共有し、共に乗り越えるための手段として機能している。メタルは誤解を乗り越え、豊かな文化として成長し続けている。
第9章 デジタル時代のメタル: インターネットと新たな可能性
ストリーミング革命とメタルの進化
デジタル技術が急速に発展する中で、音楽ストリーミングサービスが普及し、メタルシーンも大きく変化した。SpotifyやApple Musicなどのプラットフォームにより、世界中のファンが簡単に新しいバンドやアルバムを発見できるようになった。以前はレコード店でしか手に入らなかったレアなメタルアルバムも、今やクリック一つで聴くことができる。この変化により、メタルバンドはより多くの聴衆にアプローチできるようになり、特に新興バンドにとっては知名度を上げる大きなチャンスが広がった。
ソーシャルメディアでつながるメタルファン
インターネットの登場は、メタルファン同士のつながり方にも大きな変革をもたらした。FacebookやInstagram、Twitterなどのソーシャルメディアは、バンドがファンと直接コミュニケーションを取る場として活用されている。これにより、メタルファンは以前よりも近い距離でアーティストを応援できるようになった。ファンはコンサートの感想やライブ映像を瞬時にシェアし、世界中のメタル愛好者とつながることが可能になった。このデジタル化により、メタルコミュニティは国境を越えてさらに強固なものとなった。
メタルバンドの独立性とクラウドファンディング
インターネット時代は、バンドの制作やプロモーションのあり方にも大きな影響を与えている。かつてはレコード会社に頼らなければアルバム制作が難しかったが、今ではバンド自身が資金を集め、自由に音楽活動を展開することができる。クラウドファンディングプラットフォームを利用すれば、ファンから直接支援を受けてアルバムを制作できるようになり、アーティストの独立性が強まった。これにより、大手レコード会社に依存せずとも成功できるバンドが増え、メタルシーンの多様性が一層広がっている。
バーチャルライブとデジタルフェスティバル
パンデミックの影響で多くのライブが中止となったが、インターネットを活用した「バーチャルライブ」が新たな形態として注目を集めた。世界中のファンがオンラインで集まり、バンドのライブ配信を楽しむことが可能になった。特に2020年以降、多くのメタルフェスティバルがデジタルで開催され、ファンは自宅から参加できるようになった。このような技術の進化により、メタルのライブ体験は新しい形で進化し続け、今後もデジタル化がメタルシーンに新たな可能性を広げていくであろう。
第10章 ヘヴィメタルの未来: 進化するサウンドとシーン
新しいサブジャンルの誕生
ヘヴィメタルは常に進化を続けており、これからも新しいサブジャンルが生まれていく。近年では、ジェント(djent)やポストメタルといったスタイルが登場し、メタルのサウンドに新しい息吹を吹き込んでいる。ジェントは、特に複雑なリズムやギターの特殊なチューニングが特徴で、Meshuggahなどがこのスタイルをリードしている。一方、ポストメタルは、静と動のコントラストを強調し、音楽により深い感情を表現する。これらの新しいサブジャンルは、メタルが常に革新を求めるジャンルであることを示している。
次世代のメタルアーティストの登場
次世代のメタルアーティストたちが、今後のシーンを支える存在となる。従来のメタルバンドが築いた基盤の上に、彼らは新しいアイデアや技術を取り入れて、さらなる進化を遂げている。たとえば、女性ヴォーカリストがフロントに立つバンドが増え、メタルの世界がより多様化している。Arch Enemyのアリッサ・ホワイト=グラズは、力強いグロウルと美しい歌声を使い分け、メタルの新しい魅力を引き出している。次世代のアーティストたちがどのようにメタルを進化させていくのか、その未来は非常に楽しみである。
テクノロジーとメタルの融合
デジタル技術の発展は、メタルの作曲やライブパフォーマンスにも大きな影響を与えている。現代のメタルバンドは、コンピューターやソフトウェアを駆使して、かつては不可能だった複雑なサウンドを作り出している。シンセサイザーや電子音を取り入れたサウンドは、バンドの音楽にさらなる深みを加えている。また、ライブ演奏においても、視覚効果や映像を組み合わせたパフォーマンスが増えており、観客に新しい体験を提供している。テクノロジーは、メタルの未来をより豊かで多様なものにしている。
メタルシーンの国際化
メタルシーンは今後ますます国際化が進むだろう。すでにヨーロッパやアメリカを越えて、アジアや中南米、さらにはアフリカなど、世界中でメタルバンドが活躍している。インターネットを通じて、どの国のファンもお気に入りのバンドを簡単に見つけ、応援できる時代が到来している。日本のBABYMETALが世界的に成功したように、これからも新しい国や地域からメタルの才能が生まれ、国際的なシーンに影響を与えることは間違いない。メタルは、国境を超えたグローバルな音楽ジャンルとしてさらに進化していく。