基礎知識
- ハックアンドスラッシュ(Hack and Slash)の起源
ハックアンドスラッシュ(H&S)は、1970年代のテーブルトークRPG『ダンジョンズ&ドラゴンズ(D&D)』の戦闘重視スタイルに端を発し、その後、ビデオゲームへと発展した。 - アクション性とゲームデザインの進化
初期のH&Sは単純な戦闘システムを持っていたが、アーケードゲームの発展とともに、コンボシステムやスキルツリーなどの複雑な要素が追加され、戦略性が高まった。 - ジャンルの分岐と影響
H&Sは、ディアブロ系アクションRPG(ARPG)、ベルトスクロールアクション、ソウルライクなどの形で派生し、ジャンルの境界を超えて多くのゲームデザインに影響を与えた。 - 地域ごとの発展と文化的影響
西洋ではダークファンタジー志向が強く、東洋ではハイスピードでスタイリッシュなアクション要素が重視されるなど、H&Sの進化は地域ごとに異なる特徴を持つ。 - 現代におけるハックアンドスラッシュの位置付け
オープンワールド、ローグライク、ガチャ要素との融合など、新たなゲームデザインとの組み合わせが進み、H&Sは今もなお進化を続けている。
第1章 ハックアンドスラッシュの起源と誕生
ダンジョンズ&ドラゴンズが生んだ冒険の原型
1974年、テーブルトークRPG(TRPG)『ダンジョンズ&ドラゴンズ(D&D)』が誕生した。ゲイリー・ガイギャックスとデイヴ・アーンソンによって生み出されたこのゲームは、プレイヤーがキャラクターを作成し、ダンジョンを探索し、モンスターと戦う体験を提供した。戦闘はサイコロを振って成功判定を行う仕組みで、強力な武器や魔法を駆使して敵を倒すことが目的となる。この「戦闘重視のプレイスタイル」が、後に「ハックアンドスラッシュ(H&S)」として知られるようになる。プレイヤーはキャラクターの成長や装備の収集を楽しみながら、より強い敵との戦闘を求めるようになった。
コンピューターRPGとの邂逅
D&Dの影響を受けたコンピューターRPG(CRPG)は1970年代後半から登場し始めた。代表作は、1975年にプログラマーのウィル・クローターが開発した『pedit5』や、1977年の『ダンジョン』である。これらは大学のメインフレームコンピューターで動作し、プレイヤーがダンジョンを探索しながら戦闘を重ねる仕組みを持っていた。やがて1980年代に入ると、パーソナルコンピューター向けのRPGが台頭し、『ウルティマ』や『ウィザードリィ』といった作品が登場する。これらのゲームは、D&Dのルールを模倣しつつも、独自のゲームシステムを導入し、戦闘のテンポや戦利品の収集に重点を置くことで、H&Sの要素を強化していった。
アーケードゲームの影響と戦闘の進化
1980年代には、アーケードゲームがH&Sの進化に大きな影響を与えた。特に1984年にリリースされた『ドルアーガの塔』は、リアルタイムアクションと戦闘を組み合わせたことで話題を呼んだ。また、1985年の『ガントレット』は、最大4人のプレイヤーが協力してモンスターと戦うシステムを採用し、戦闘の爽快感を高めた。さらに、1989年に登場した『ゴールデンアックス』は、剣や魔法を駆使したアクション要素とファンタジー世界観を融合させ、H&Sの魅力を視覚的にも表現した。アーケードゲームの技術発展により、戦闘のテンポは速くなり、戦利品や成長要素も導入され、H&Sのゲームデザインが確立していった。
「強さ」を求めるプレイヤー心理の確立
H&Sが成長する背景には、プレイヤーの「強くなりたい」という欲求があった。D&Dではダンジョンを進むごとに新しい武器や魔法を手に入れ、キャラクターが成長していく喜びがあった。これはコンピューターRPGやアーケードゲームにも引き継がれ、戦闘を重ねるほどにプレイヤーの分身が強くなる仕組みが作られた。戦利品を求め、より強い敵を倒し、さらに強力な装備を得るというループは、H&Sの本質的な楽しさとなった。こうして、ゲームの歴史の中で「戦闘を繰り返すことで成長する」スタイルは定着し、H&Sというジャンルが確立されていったのである。
第2章 アーケードから家庭用ゲームへ ― 進化するアクション性
コイン投入の魔力 ― アーケードH&Sの夜明け
1980年代、ゲームセンターには数々のアクションゲームが並び、プレイヤーは100円玉を握りしめて戦場に挑んだ。『ガントレット』(1985年)は協力プレイの楽しさを広め、『ゴールデンアックス』(1989年)は剣と魔法による爽快な戦闘を提供した。プレイヤーはコンボを決め、敵を倒し、より強力な武器を手に入れる快感に魅了された。アーケードH&Sは、激しいアクションと簡単な操作の両立を目指し、戦闘のテンポを高速化させた。この時期に磨かれたゲームデザインが、後の家庭用H&Sの基盤となるのである。
ボタン一つで戦え ― H&Sの操作革命
アーケードゲームでは、直感的な操作が求められた。初期のH&Sでは攻撃ボタンを押すだけで敵を切り裂けたが、『ファイナルファイト』(1989年)はコンボシステムを導入し、攻撃の連携を可能にした。『ストリートファイターII』(1991年)の影響もあり、H&Sは単調な攻撃から、タイミングや技の組み合わせを駆使するゲームへと進化した。また、ジャンプ攻撃や必殺技ゲージといった新要素が追加され、戦闘の奥深さが増していった。この変化は、後の『デビルメイクライ』や『ベヨネッタ』のようなスタイリッシュアクションにも受け継がれることになる。
家庭用ゲーム機が生んだH&Sの多様化
1990年代、家庭用ゲーム機の性能向上により、アーケードH&Sのエッセンスが家庭に持ち込まれた。スーパーファミコンでは『ザ・キング・オブ・ドラゴンズ』(1991年)や『天地を喰らうII 赤壁の戦い』(1992年)などの移植作が登場し、家庭でもH&Sを楽しめる時代が到来した。同時に、RPG要素を取り入れた『聖剣伝説2』(1993年)や『ゼルダの伝説 神々のトライフォース』(1991年)が誕生し、探索や成長要素が加わることでH&Sのプレイ体験はより奥深いものとなった。
コンボ、スキル、そして3Dへ ― 次世代H&Sの幕開け
1990年代後半から2000年代初頭にかけて、H&Sは3Dへと進化した。『ソウルキャリバー』(1998年)や『鬼武者』(2001年)は、立体的な戦闘と派手な剣戟アクションを可能にした。また、『デビルメイクライ』(2001年)はコンボシステムを強化し、技の組み合わせによって戦闘の流れが変わる新たなH&Sのスタイルを確立した。家庭用ゲーム機の進化により、プレイヤーのスキルが問われるゲームデザインが主流となり、H&Sはさらなる進化を遂げることとなる。
第3章 西洋と日本 ― 異なる進化を遂げたH&S
西洋のハクスラ ― ダークファンタジーと戦利品の快楽
西洋のH&Sはダークファンタジーと戦利品収集に重点を置く形で発展した。その代表格が1996年に登場した『ディアブロ』である。このゲームは、プレイヤーがランダム生成されるダンジョンを探索し、モンスターを倒し、戦利品を集めることを目的としていた。プレイヤーの強さは装備によって決まり、運次第で極めて強力なアイテムを手に入れられる仕組みは、熱狂的なプレイヤー層を生んだ。この「戦い、戦利品を得る、さらに強くなる」というループは、西洋のH&Sの根幹となり、後の作品にも受け継がれていくこととなる。
日本のハクスラ ― スタイリッシュアクションへの進化
一方、日本のH&Sは戦利品収集よりもスタイリッシュなアクション性を追求する形で発展した。その代表作が2001年にカプコンから発売された『デビルメイクライ』である。このゲームは、単に敵を倒すのではなく、「いかに華麗に倒すか」が評価されるシステムを導入した。コンボをつなげ、空中戦を駆使し、敵をスタイリッシュに倒すことでスコアが上昇し、プレイヤーに爽快感を与える。また、日本のH&Sでは、物語やキャラクター性も重視され、プレイヤーが主人公と共に戦いのドラマを楽しめる要素が加えられた。
世界観の違い ― ダークで重厚 vs. スピーディーで華麗
西洋のH&Sは、古典的なダークファンタジーの世界観を色濃く受け継いでいる。『ディアブロ』や『ダークソウル』シリーズでは、陰鬱な雰囲気の中で、プレイヤーが絶望的な戦いを繰り広げる。一方、日本のH&Sは、よりスタイリッシュでスピーディーな戦闘を重視し、『ベヨネッタ』のように華やかで超人的なアクションが繰り広げられる。西洋が「死と絶望の中で強くなる物語」を描くのに対し、日本は「華麗な動きで敵を圧倒する楽しさ」に重点を置いているのである。
交差する道 ― 影響を与え合うハクスラ文化
近年では、西洋と日本のH&Sは互いに影響を与え合うようになった。例えば『仁王』(2017年)は、日本の開発会社が手掛けながらも、西洋的なハードな戦闘と戦利品収集の要素を取り入れた。一方、『ゴッド・オブ・ウォー』(2018年)は、西洋のH&Sでありながら、日本の影響を受けたスピーディーな戦闘を採用している。こうした融合によって、H&Sは単なる戦闘の枠を超え、新たな形へと進化し続けているのである。
第4章 ディアブロと戦利品システム ― ルートハンティングの誕生
「ディアブロ」の衝撃 ― 終わりなき戦いの始まり
1996年、ブリザード・ノースが開発した『ディアブロ』は、ハックアンドスラッシュ(H&S)の概念を劇的に変えた。このゲームの最大の魅力は、ランダム生成されるダンジョンと無限の戦利品システムである。プレイヤーはモンスターを倒し、運次第で強力な武器や防具を手に入れることができた。この「倒して、奪い、強くなる」ループは、中毒性の高いゲームデザインとして瞬く間に話題となり、多くのプレイヤーが夜通しダンジョンを探索し続けるようになった。これが、現代H&Sの基盤となる「ルートハンティング(戦利品集め)」の誕生である。
ランダムドロップがもたらした新たな快楽
『ディアブロ』が革新的だったのは、すべてのアイテムがランダムに生成される点である。敵を倒すたびに異なる武器や防具が手に入るため、プレイヤーは「次こそはもっと強い装備を!」という期待感に駆られた。ときにはレアなアイテムがドロップすることもあり、その瞬間の興奮は計り知れない。特に『ディアブロII』(2000年)では、アイテムにランクが導入され、エピック(超レア)やユニーク装備の存在がプレイヤーの探索意欲をさらに掻き立てた。このシステムは、その後の数多くのゲームに影響を与えることとなる。
「戦利品システム」の進化と影響
『ディアブロ』が生み出した戦利品システムは、さまざまなゲームジャンルに影響を与えた。例えば、『ボーダーランズ』(2009年)はシューティングゲームとH&Sを融合させ、銃のランダムドロップ要素を取り入れた。また、『Destiny』(2014年)ではオンライン要素と戦利品収集を組み合わせることで、長期的なプレイを促した。さらに、『パス・オブ・エグザイル』(2013年)は、ディアブロの精神を受け継ぎつつも、より複雑なスキルツリーとアイテムシステムを構築し、H&Sの奥深さをさらに広げたのである。
ルートハンティングの未来 ― 果てなき探索
現代のH&Sでは、戦利品システムがさらに進化し、プレイヤーの選択肢が広がっている。『ディアブロIV』(2023年)では、カスタマイズ性の高い装備とオンライン要素が融合し、新たな戦利品の概念が生まれた。また、AIを活用したアイテム生成や、プレイヤー同士の取引が可能なシステムが導入されることで、ルートハンティングは単なる「強い武器探し」から「自分だけの最強装備を作る」時代へと変化しつつある。H&Sの戦利品システムは、これからもゲームの核として進化し続けるのである。
第5章 ベルトスクロールアクションとH&Sの融合
「ファイナルファイト」が生んだ新たな戦場
1989年、カプコンが生み出した『ファイナルファイト』は、ハックアンドスラッシュ(H&S)とベルトスクロールアクションの融合を決定的なものとした。このゲームでは、プレイヤーは悪党に支配された都市を駆け抜け、次々と襲いかかる敵を拳と武器でなぎ倒していく。『ダブルドラゴン』(1987年)と並び、協力プレイの魅力を広めた作品であり、派手なアクションと爽快な戦闘システムが特徴だった。H&Sの醍醐味である「戦い続ける快感」と「成長する達成感」が、ベルトスクロールのフォーマットと見事に融合したのである。
協力プレイがもたらした戦闘の熱狂
ベルトスクロールH&Sの最大の魅力は、協力プレイによる戦略的な戦闘である。『ゴールデンアックス』(1989年)では、異なる武器や魔法を持つキャラクターが協力しながら敵の軍勢をなぎ倒していく。『キャプテンコマンドー』(1991年)は、SF世界観を取り入れ、複数のプレイヤーが連携して技を決める楽しさを提供した。プレイヤー同士のコンビネーションが戦局を左右するシステムは、対戦型格闘ゲームの流行とも相まって、よりテクニカルな戦いを生み出していった。
3D時代への進化と挑戦
1990年代後半、ベルトスクロールH&Sは3Dへと進化する過程で試行錯誤を重ねた。『ダイナマイト刑事』(1996年)は、3D空間での戦闘を取り入れつつ、武器を拾うシステムを強化した。さらに、『ゴッド・オブ・ウォー』(2005年)は、ベルトスクロールの操作感を3Dアクションに落とし込み、流れるようなコンボと爽快感を生み出した。戦場が横スクロールの制限を超え、広大な空間へと広がったことで、戦闘の自由度と没入感は飛躍的に向上したのである。
現代のベルトスクロールH&Sの復活
近年、クラシックなベルトスクロールH&Sが再び脚光を浴びている。『ストリーツ・オブ・レイジ4』(2020年)は、伝統的なベルトスクロールの操作感を維持しつつ、洗練されたアニメーションと新たなコンボシステムを導入した。『ドラゴンズクラウン』(2013年)は、RPG要素を融合させ、キャラクターの成長と戦利品収集を加えた。ベルトスクロールH&Sは、進化しながらも、プレイヤーが「仲間と共に敵を蹴散らす快感」を楽しめるジャンルとして、今もなお支持され続けているのである。
第6章 ソウルライクとH&S ― 死と挑戦の美学
「デモンズソウル」の誕生がもたらした衝撃
2009年、フロム・ソフトウェアが生み出した『デモンズソウル』は、アクションRPGの新たな時代を切り開いた。このゲームは、「高難易度」「パターン学習」「リスクとリターンのバランス」を特徴とし、プレイヤーに容赦のない挑戦を突きつけた。敵の攻撃は苛烈で、雑魚モンスターすら一瞬でプレイヤーを葬る。戦闘は慎重な立ち回りを要求され、無謀な行動は即座に死へとつながる。それまでのH&Sが「爽快感」を重視していたのに対し、『デモンズソウル』は「生存することそのものの達成感」に焦点を当て、新たなゲーム哲学を確立した。
「ダークソウル」が確立したソウルライクの型
2011年に発売された『ダークソウル』は、『デモンズソウル』のコンセプトを拡張し、ソウルライクという新たなジャンルを決定づけた。広大なオープンフィールドを探索しながら、強敵との緊張感ある戦闘を繰り広げる。チェックポイントである「篝火」の概念は、H&Sにおける「戦い続けるモチベーション」を巧みに演出した。戦利品収集の要素は控えめだが、装備や戦術の選択肢が広がり、プレイヤーの成長が実感しやすくなった。さらに、敵の動きを学び、最適な立ち回りを研究するプレイスタイルが定着し、「挑戦の美学」が洗練されていった。
死が教えてくれるもの ― ゲームデザインの妙
ソウルライクの特徴の一つが「死の意味づけ」である。『ブラッドボーン』(2015年)では、死ぬことで経験値(血の遺志)を失うが、再び同じ場所に戻ることで取り戻せるシステムを導入した。これは、プレイヤーに「死を乗り越えること」を強く意識させ、次の挑戦へのモチベーションを高める効果を生んだ。また、敵の配置や攻撃パターンが緻密に設計されており、「ただ強い武器を手に入れれば勝てる」というH&Sの概念とは異なる、「学習と成長」が攻略の鍵となった。このシステムが、プレイヤーに強烈な達成感をもたらすのである。
ソウルライクとH&Sの融合が生む未来
ソウルライクは単独のジャンルとして確立したが、H&Sとの融合も進んでいる。『仁王』(2017年)は、ソウルライクの戦略性とH&Sの戦利品収集を組み合わせ、新たなプレイ体験を提供した。『エルデンリング』(2022年)は、ソウルライクの探索要素をさらに拡張し、広大なオープンワールドを舞台に「死と挑戦」の楽しさを追求した。H&Sが「戦って強くなる」ゲームデザインを主軸にしてきたのに対し、ソウルライクは「戦いながら学ぶ」ことに価値を置いている。今後、この二つのジャンルがどのように融合し、進化していくのかが注目される。
第7章 H&Sとオープンワールド ― 自由と探索の拡張
「ゼルダの伝説」が示した新たな冒険の形
2017年、『ゼルダの伝説 ブレス オブ ザ ワイルド』は、H&Sの概念を根本から変えた。このゲームでは、プレイヤーは広大なオープンワールドを自由に探索し、好きな順番で敵と戦うことができる。装備はフィールドで拾い、戦闘スタイルはプレイヤー自身の選択に委ねられた。戦うか逃げるか、正面から挑むか戦略を練るか、すべてが自由である。この「自由度」と「戦利品収集」というH&Sの要素が融合し、戦いの楽しさと探索の魅力を最大限に引き出したのである。
クエスト主導型のH&Sの進化
オープンワールドH&Sの特徴の一つが、クエスト主導型のゲームデザインである。『ウィッチャー3 ワイルドハント』(2015年)は、豊富なクエストとストーリー要素をH&Sに組み込み、プレイヤーに単なる戦闘以上の体験を提供した。『アサシンクリード ヴァルハラ』(2020年)も、戦闘の爽快感と広大な探索要素を融合させ、オープンワールドH&Sの可能性を広げた。クエストを進めながら装備を強化し、プレイヤーの行動次第で戦闘のスタイルが変化するこのシステムは、新たなH&Sの形を確立している。
サンドボックスとH&Sの融合
H&Sはサンドボックス型のゲームとも相性が良い。『Minecraft』(2011年)は、戦利品収集と探索の要素を融合させ、プレイヤーが自ら冒険を作り出せるシステムを実現した。『エルデンリング』(2022年)は、オープンワールドとソウルライクの挑戦的な戦闘を融合させ、プレイヤーがどのエリアから攻略するかを自由に決められる設計を採用した。これにより、H&Sの「戦い続ける快感」と「自分の物語を作る楽しさ」がより深まる形となった。
オープンワールドH&Sの未来
オープンワールドH&Sは、さらなる進化を遂げている。近年では、AIを活用した動的なクエストシステムや、プレイヤーが影響を与える生態系などが導入され始めている。『Starfield』(2023年)では、広大な宇宙を舞台にH&Sの要素を取り入れ、新たな冒険の形を模索している。H&Sは、固定されたダンジョンから解放され、オープンワールドの中で無限の可能性を秘めた新たなジャンルへと進化しつつあるのである。
第8章 ハクスラ×ローグライク ― 無限に遊べるゲームの誕生
ランダム生成ダンジョンの魅力
ハックアンドスラッシュ(H&S)とローグライクの融合は、プレイヤーごとに異なる体験を提供することでゲームの奥深さを増した。その起源は、1980年に登場した『ローグ』にある。このゲームは毎回異なるマップを生成し、プレイヤーが慎重に進まなければ即座にゲームオーバーとなるシステムを採用した。これがH&Sと結びついたことで、ダンジョン探索の度に新たな戦利品が手に入り、同じゲームでも異なる戦略を要求される作品が生まれた。この組み合わせこそが、無限に遊べるH&Sの可能性を広げる鍵となったのである。
『ハデス』が示したローグライクH&Sの完成形
2020年に発売された『ハデス』は、ローグライクとH&Sの融合を極限まで高めた作品である。プレイヤーは死ぬたびに最初からやり直しとなるが、そのたびに新しい武器やスキルが手に入り、成長を実感できるデザインになっている。戦闘はスピーディーでスタイリッシュなアクションが求められ、毎回異なるスキル構成で挑むため、プレイするたびに新鮮な戦闘体験が味わえる。この「死ぬことが成長に繋がる」ゲーム設計は、H&Sとローグライクの相性の良さを証明するものとなった。
ランダム要素が生み出す中毒性
H&Sとローグライクの融合が生み出す最大の魅力は、ランダム性がプレイヤーの「もう一回!」という欲求を刺激する点にある。『バインディング・オブ・アイザック』(2011年)は、アイテムがランダムに生成され、プレイするたびに異なる戦略を試す楽しみを提供した。同様に、『リスク・オブ・レイン2』(2019年)は、戦闘が進むほど敵が強くなるシステムを導入し、緊張感と爽快感を絶妙に融合させた。どのゲームも、プレイヤーが何度も挑戦したくなる要素を巧みに組み込んでいる。
未来のH&S×ローグライク ― どこまで進化するのか
近年では、H&Sとローグライクの組み合わせがますます進化している。『ディアブロIV』(2023年)は、ランダム要素を強化したダンジョン探索システムを導入し、プレイヤーごとに異なる体験を提供している。また、AI技術の進化により、敵の動きやダンジョンの構造がプレイヤーの行動に応じて変化する仕組みも開発されている。今後、H&S×ローグライクはより複雑でダイナミックなものとなり、プレイヤーに無限の挑戦を提供し続けるだろう。
第9章 課金とガチャ要素 ― モダンH&Sの新たな形
モバイルゲームが変えたH&Sの風景
H&Sは、家庭用ゲーム機やPCの枠を超え、モバイルゲーム市場に進出した。『ディアブロ イモータル』(2022年)は、スマートフォンでプレイ可能なH&Sとして話題を集めた。従来のH&Sの要素を残しつつ、モバイルならではの手軽な操作と、オンライン要素を強化した設計が特徴である。プレイヤーはどこでもダンジョンに挑み、戦利品を集めることができる。しかし、こうしたゲームは、基本無料でありながらも、ゲーム内課金が大きな収益源となっており、新たなH&Sのあり方を生み出したのである。
ガチャと戦利品の融合
H&Sとガチャ要素の融合は、戦利品収集の概念を根本的に変えた。『原神』(2020年)は、アクションRPGの要素を持ちつつ、キャラクターや武器をガチャで入手するシステムを採用した。これにより、H&Sの本質である「強くなるための装備集め」が、プレイヤーの課金要素と直結するようになった。また、『パス・オブ・エグザイル』は、ランダム要素の強いアイテムドロップと、トレードを重視したシステムを構築し、ガチャに頼らずとも戦利品の価値を高める方法を確立した。
課金とゲームデザインのバランス
課金要素がH&Sに与えた影響は賛否が分かれる。例えば、『ディアブロ イモータル』は、装備の強化に課金が絡むため、一部のプレイヤーから「Pay to Win(課金で勝つ)」と批判された。一方、『モンスターハンター ライズ』のように、課金要素をコスメティック(見た目)に限定し、ゲームプレイには影響を与えない設計を取るケースもある。開発者は、課金を取り入れつつも、プレイヤーが公平に楽しめるバランスを模索しているのである。
モダンH&Sの未来 ― 課金と共存する時代へ
課金要素を含むH&Sの未来は、よりプレイヤーの選択肢が広がる方向へ進んでいる。例えば、『ヘルダイバーズ2』(2024年)は、オンライン協力プレイを強化しつつ、ゲーム内通貨で装備を購入できる仕組みを導入した。今後、AIを活用したダイナミックな課金システムや、プレイヤー同士の経済圏が生まれる可能性もある。H&Sは、単なる戦闘の楽しさだけでなく、ゲームの収益モデルとしても進化を続けているのである。
第10章 未来のハックアンドスラッシュ ― 次世代ゲームへの展望
AIが生み出すダイナミックな戦場
次世代のハックアンドスラッシュ(H&S)は、AI技術の進化によってさらなる変貌を遂げる。『Noita』(2019年)のような物理演算を活用した戦闘が進化し、敵がプレイヤーの戦い方を学習し、動的に戦略を変える時代が到来するだろう。AIがリアルタイムでダンジョンや敵の配置を変更し、プレイヤーの行動に応じた適応型戦場を作り出すことで、毎回異なる戦闘体験が生まれる。従来のH&Sが「パターン化された挑戦」だったのに対し、未来のH&Sは「予測不能な戦い」を提供するようになるのである。
VRとARの融合が生む新たな没入感
H&Sは、VR(仮想現実)やAR(拡張現実)技術と融合することで、さらなる没入体験を実現しつつある。『Skyrim VR』(2018年)や『Blade & Sorcery』のようなVR対応アクションゲームは、剣戟アクションのリアルさを追求しており、H&Sのリアルタイム戦闘と相性が良い。さらに、AR技術を活用すれば、プレイヤーの周囲の空間にダンジョンが生成され、現実世界とゲームが一体化する未来も考えられる。H&Sの「戦い続ける快感」が、身体を動かしながら体感できるものへと進化する可能性は高い。
プレイヤーが創造するH&Sの未来
次世代のH&Sでは、プレイヤー自身がゲームの世界を作る時代が訪れるかもしれない。『Minecraft』や『Dreams』(2020年)のように、プレイヤーがダンジョンや敵の動きをデザインし、他のプレイヤーと共有できるシステムが登場する可能性がある。ユーザーが作成したダンジョンをAIが自動生成し、他プレイヤーと共有することで、ゲームの寿命が無限に延びる。プレイヤー自身が開発者となることで、H&Sは「与えられる冒険」から「創造する冒険」へと変化するのである。
H&Sの進化はどこへ向かうのか
H&Sは、単なる「戦いの繰り返し」ではなく、より広範なゲームジャンルとの融合を進めている。オープンワールドやソウルライク、ローグライク要素との組み合わせはもちろん、ストラテジー要素を加えた新たなゲームデザインも登場するだろう。プレイヤーの自由度を極限まで高め、単調な戦闘ではなく、戦略と成長のバランスを楽しめるH&Sが生まれる。これからのH&Sは、かつてないほどプレイヤーごとの「個別体験」を提供し、ゲームの未来を切り拓くジャンルであり続けるのである。